Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション7
急を要する甲状腺疾患 −この画像を見たら急いで!!! −

(S219)

注意すべき嚢胞性にみえる甲状腺結節

Pitfalls in ultrasound diagnoses of apparently cystic thyroid nodules.

村上 司

Tsukasa Murakami

野口病院内科

Department of Endocrinology, Noguchi Thyroid Clinic and Hospital Foundation

キーワード :

超音波で嚢胞性にみえる甲状腺結節は通常穿刺吸引細胞診の適応にならず,臨床的に問題になることはあまりない.実際,日常よく経験する甲状腺嚢胞性結節の大部分は良性であり,圧迫症状や美容的な問題を伴う大きな嚢胞でなければ放置しても問題ないことが多い.大きな嚢胞以外で診断上注意すべき嚢胞性にみえる,あるいは嚢胞性優位の結節について考察する.
1.痛みを伴う甲状腺結節の鑑別診断:嚢胞内出血
 甲状腺に痛みを生じる疾患には亜急性甲状腺炎,慢性甲状腺炎急性増悪,急性化膿性甲状腺炎,甲状腺未分化癌,嚢胞内出血などが挙げられる.この中で亜急性甲状腺炎と嚢胞内出血の頻度が高く,他の疾患はいずれもまれなものである.限局した硬い結節に一致して圧痛を認めるが,亜急性甲状腺炎では表面が不整なことが多く,嚢胞は表面平滑である.血清thyroglobulinの上昇,CRP陽性,WBC増多はいずれの疾患でも認められることがある.亜急性甲状腺炎は甲状腺中毒症を伴うことが多いが,嚢胞内出血では甲状腺機能は正常である.超音波検査が両疾患の鑑別に最も有用である.嚢胞内出血による痛みであれば通常数日以内に治まる.痛みが強ければNSAIDを処方して様子をみることになる.
2.嚢胞成分優位であるが治療を要する結節:嚢胞性変化を伴う乳頭癌・過機能結節
 嚢胞成分優位の結節の中に見逃してはいけない例がまれにある.甲状腺乳頭癌の一部は嚢胞性変化を伴い,良性結節との鑑別を要する場合がある.超音波像では充実性の部分に点状高エコーを伴うことが多い.診断確定のためには充実性の部を狙った細胞診が必要である.診断が確定すれば手術適応である.
過機能結節の中には超音波で嚢胞性優位にみえる症例がある.超音波で良性結節にみえてもTSHが抑制されている場合はシンチグラムと超音波像との対比が診断に有用である.放射性ヨード治療または手術の適応を考慮する.
3.一見嚢胞性にみえるが充実性で治療を要する結節:悪性リンパ腫,甲状腺内副甲状腺腫による副甲状腺機能亢進症
 甲状腺原発悪性リンパ腫は甲状腺悪性腫瘍の約4%を占めるまれな腫瘍である.悪性リンパ腫は充実性の病変で超音波では低エコーに描出されpseudocystic signとも表現される.嚢胞との鑑別を要するのはびまん性に病変が広がらず限局性の病変にとどまる症例である.注意して観察すれば充実性と判断できることが多いが,エコーレベルが極端に低い症例では注意を要すると思われる.
 異所性副甲状腺腫が甲状腺内に発見されることがある.超音波では低エコーで一見甲状腺嚢胞のように描出される.Doppler法で豊富な血流信号がみられるのが特徴である.高カルシウム血症があり,正所性に腫大副甲状腺が発見されなければ超音波所見から甲状腺内副甲状腺腫を疑うことが可能である.
4.甲状腺嚢胞にみえるが甲状腺以外に発生した嚢胞:副甲状腺嚢胞
 副甲状腺嚢胞は甲状腺下極に接する嚢胞として認められることが多く,甲状腺内に発生した嚢胞との鑑別が困難な場合がある.超音波所見から診断できる例が多いが,診断確定には内容液が水のように無色透明であることと内容液中のPTHが高濃度であることを確認する必要がある.診断が確定すれば通常治療の必要はない.