Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション7
急を要する甲状腺疾患 −この画像を見たら急いで!!! −

(S218)

甲状腺悪性リンパ腫

Malignant lymphoma of the thyroid

小林 薫1, 太田 寿3, 森田 新二3, 福島 光浩1, 網野 信行2, 宮内 昭1

Kaoru KOBAYASHI1, Hisashi OOTA3, Shinji MORITA3, Mitsuhiro FUKUSHIMA1, Nobuyuki AMINO2, Akira MIYAUCHI1

1隈病院外科, 2隈病院内科, 3隈病院臨床検査科

1Surgery, KumaHospital, 2Internal medicine, KumaHospital, 3Clinical examination, KumaHospital

キーワード :

【はじめに】
甲状腺疾患は他臓器疾患に比較して,診断治療に緊急を要する場合は少ない.甲状腺の悪性リンパ腫は甲状腺乳頭癌などに比較すると増殖の速度は速いものの,あまり緊急性のない症例が多いといえる.ところが極めて急速に増大する悪性リンパ腫の症例も存在する.今回は極めて急速に増大した悪性リンパ腫の症例を選び,反省を込めて報告する.
【症例】
MY 71歳男性
初診より3日前 感冒のため近医受診.このとき,嗄声と前頸部の結節を指摘された.当院初診.甲状腺右葉に一致する部位に結節を触知する.硬い,表面凹凸あり,可動性不良,左頸部に腫大リンパ節を触れる.嗄声あり.既往歴・家族歴:特記事項なし.
【初日】
血液検査:FT4: 0.93 ng/dl (0.7-1.6), TSH: 1.853 (0.3-5.0 μU/ml), Tg: <0.5 ng/ml (<35),TGHA 802 x,MCHA 402x.頸部X−P:気管は右側に偏位.石灰化像なし.超音波検査:甲状腺左葉に結節あり.気管を右側に強く圧排する.大きさ67x44mm.形状不整.境界の明瞭性は明瞭,性状は粗雑で,切れ込み像あり.内部は低エコーレベル.内部には高エコーなし.後方エコーは増強あり.左側頸部の多発性のリンパ節の著明な腫大あり.超音波診断としては甲状腺悪性リンパ腫,頸部リンパ節転移を強く疑う.穿刺吸引細胞診:Class II,慢性甲状腺炎.
【7日目】
超音波検査:大きさ72x40mmで増大.穿刺吸引細胞診:Class III,リンパ球と紡錘形の細胞が混在.頸部CT:甲状腺左葉に不整型の結節あり.低濃度.気管は右側に偏位.気管と食道に浸潤様にみえる.気管粘膜の腫脹あり.左側頸部の多発性のリンパ節の多発性の腫大あり.
【28日目】
超音波検査:大きさ95x45mmでさらに増大.穿刺吸引細胞診: Class II,慢性甲状腺炎.細胞診では明らかな悪性所見は認められなかった.頸部X−P:気管の偏位の程度はさらに増大した.
3回細胞診を行っている間に結節は急速に増大した.細胞診で悪性の所見はみられなかったが,悪性リンパ腫であろうとして,開放生検の方針にした.
【35日目】
開放生検を実施.腫瘤は周辺の筋肉と脂肪組織に強い浸潤傾向を呈した.標本25x10x10 mm大.病理診断:Malignant lymphoma, B-cell type, Diffuse large type, high grade, MIB-1 labeling index ; 50-80 %. P53(+),Bcl2(+),と診断された.他院の血液内科に入院し,化学療法を施行した.腫瘍は著明に縮小消失し,特に大きな合併症もなく寛解した.現在,治療後4年6ヶ月になるが,再発徴候なく経過良好である.
【問題点】
検査を繰り返して治療を始めるまでに時間がかかり,腫瘍は急速に増大した.
【結語】
悪性リンパ腫の一部には急速増大する症例がある.超音波検査で急速増大を観察することができる.迅速な診断と治療が必要である.