Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション6
眼部超音波ドプラーによる微小循環の評価

(S214)

眼動脈ドプラ血流検査の有用性

Clinical Utility with Ophthalmic artery Doppler Sonography

西川 憲清

Norikiyo NISHIKAWA

大阪警察病院眼科

Department of Ophthalmology, Osaka Police Hospital

キーワード :

 従来,体の中で動脈を観察できる唯一の場所は眼底であることから,眼底検査にて網膜動脈や動静脈交叉の状態を観察して,全身の動脈硬化が推定されてきた.
 1970年頃に鈴木一三九と里村茂夫は超音波によるドプラ効果を利用して眼動脈血流音を捉えることに成功した.谷口裕章は流速脈波として年齢による変化(動脈硬化)や脈なし病の眼循環動態について検討し,その後,糖尿病網膜症の左右差例に眼動脈ドプラ血流検査を施行したところ,網膜症の悪化している側で内頸動脈の閉塞していることを報告した.その後,ドプラ血流検査にて内頸動脈狭窄や閉塞と眼科で初めて診断されるようになり,多数例の検討から,頸動脈から遊離した塞栓子によって生じる一過性の所見(網膜動脈閉塞症・前部虚血性視神経症・軟性白斑・光輝小斑)と,眼底血圧の低下による循環障害から生じる慢性的な病変(網膜周辺部から始まる出血斑・乳頭血管新生や血管新生緑内障)の2つに,内頸動脈閉塞による眼病変は分類された.
 眼動脈の血流速度と眼底血圧との関連を検討すると,眼動脈が順流の場合に流速が遅くなるに従い眼底血圧が低下し種々の病変が発生したが,内頚動脈内膜剥離術にて眼病変は消失した.内頸動脈閉塞時に外頚動脈→眼動脈→脳への側副路が形成されると眼動脈は逆流し,逆流速度の速いものほど眼底血圧が低下していた.眼底血圧が低下している例において,慢性的な循環障害による眼虚血症候群を発生していた.浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術後に,逆流速度の速い例で術後逆流速度は低下し網膜病変は軽減したが,遅い例で逆流速度は変化なく眼病変は改善しなかった.このように,脳外科手術(内頸動脈内膜剥離術,浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術)前に,眼病変が改善するか不変であるかの予測がドプラ血流検査にて可能となった.
 眼動脈が逆流している内頸動脈完全閉塞例の眼底所見を再検討すると,網膜周辺部に眼底出血がある群と,周辺部出血がなく軟性白斑の多発群に分けられた.軟性白斑多発例で,直前に脳梗塞や一過性黒内障の既往があり,しかも高血圧を有していたことから,内頚動脈が急速に閉塞してきたときに,その部から遊離した微小血栓にて軟性白斑が出現したと考えられた.網膜周辺部の眼底出血群で頚動脈内壁の主体はhard plaqueであり,軟性白斑の多発群の内壁はsoft plaqueであると推測された.
 このように,眼病変を詳細に観察し,眼動脈ドプラ血流検査・眼窩ドプラー血流検査や頸動脈エコー検査を施行することにより,眼病変の発生機構・頸動脈閉塞過程を解明できただけでなく,頸動脈硬化病変を早期に把握することにより視力障害だけでなく脳血管障害の予防や治療が可能となってきた.
 ドプラ血流検査の推移および有用性を述べ,今後の進歩の参考にしたい.