Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション3
自覚症状に対応した領域を超えた超音波検査:腹痛の超音波検査による鑑別診断

(S202)

体外式超音波は診断の迷走を防ぐ強力なmodalityである

Ultrasound is an effective diagnostic modality to prevent delayed or incorrect diagnoses.

畠 二郎

Jiro HATA

川崎医科大学検査診断学

Dept. of Clinical Pathology and Laboratory Medicine, Kawasaki Medical School

キーワード :

【背景】
臨床診断の基本は詳細な病歴聴取と身体所見の把握であることは言うまでもないが臓器特異性に乏しい症状や身体所見を呈したり,比較的頻度の低い疾患である場合には初診時に想定した疾患と最終診断とが大きく異なることも経験され,誤診あるいは診断遅延の原因となり得る.腹部超音波検査は通常肝胆膵領域を主たる対象臓器としているが,その他の臓器も含めて幅広く観察することで思わぬ異常が検出され,正診を導く鍵となることも期待される.そこで臓器の領域にとらわれない腹部超音波検査の有用性に関して検討した.
【対象と方法】
2004年1月から同年11月の間に当院で腹部超音波検査が施行されたのべ41282例(男性19251例,女性22031例,平均年齢59.4歳)を対象とした.オーダー画面,依頼用紙,さらにカルテの記載から得られた超音波検査の目的や検査施行前に担当医が想定していた疾患と,超音波検査が診断契機となって導かれた最終診断が大きく異なる(当初膠原病が疑われたが消化管疾患であった,など)症例を検索し,その症例数や疾患の内訳について検討した.ここでの最終診断とは症状の原因であり,それを治療することで症状の改善が見られたもの,あるいはそれにより死亡したものとした.例えば偶然に肝細胞癌が発見された症例において,その肝細胞癌が主訴とは無関係と考えられ,またその治療によっても主訴が軽快しない場合は検討対象から除外した.最終診断は病理学的検査をはじめとする他の諸検査や臨床経過により総合的に判断した.
【結果】
全症例のうち95例(0.23%)で,病歴聴取と身体所見評価の段階では想定されていなかった疾患の診断に腹部超音波が有用であった.検査前に想定されていた疾患の領域は,消化管37例(37 / 95 = 38.9%,以下同様),臓器特異性なし(発熱やふらつき感など)32例(33.7%),肝胆膵領域18例(18.9%),表在領域4(4.2%),その他3例(3.2%)であった.このことより消化管疾患が疑われた場合にまず超音波検査を施行することは消化管疾患の診断のみでなく他疾患の発見にも有用であり,通常から消化管領域の診断におけるfirst lineとしての位置づけをしておくことが必要と考えられた.また臓器特異性に乏しい症状においてもまず超音波検査を行うことは非常に有用であることが示唆された.一方最終診断の領域別内訳は多い順に消化管37例(38.9%),肝胆膵17例(18%),循環器・脈管14例(14.7%),後腹膜・表在その他13例(13.7%),産婦人科9例(9.5%),腎・泌尿器5例(5.3%)であった.この結果からも消化管領域における超音波診断の重要性がうかがわれるとともに,循環器,産婦人科,さらには表在臓器や後腹膜など領域を超えた診断の必要性が示唆された.疾患の種類では急性炎症39例(41.1%),悪性腫瘍30例(31.6%),慢性炎症性疾患や妊娠その他26例(27.4%)であり,早急な対応が必要とされる疾患や重篤な疾患が多い傾向にあった.
【結語】
臓器特異性に乏しい症状や比較的稀な疾患の診断において体外式超音波検査は高い診断能を有しており,日常臨床におけるfirst lineの形態学的診断法として推奨されるべきである.簡便かつ非侵襲的に幅広い領域を同時に診断することが可能なmodalityである超音波の特性を生かすためには検者の解剖や病態生理に関する幅広い知識,超音波診断に対する意識の向上が必要であると推測される.また超音波診断の対象臓器として消化管を加えることの臨床的意義は大きい.