Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション3
自覚症状に対応した領域を超えた超音波検査:腹痛の超音波検査による鑑別診断

(S202)

腹痛を呈する循環器疾患のエコー評価

Echo evaluation of patients with cardiovascular disease presenting abdominal pain

西上 和宏

Kazuhiro NISHIGAMI

済生会熊本病院循環器内科

Cardiology, Saiseikai Kumamoto Hospital

キーワード :

循環器疾患は心臓から大動脈,末梢血管にいたる広範囲の部位に及んでおり,腹痛を呈することはまれではない.その中で代表的な循環器疾患を提示し,それぞれの特徴を述べたい.
急性心筋梗塞: 胸部絞約感が最も多い症状であるが,時に心窩部痛を呈する.特に,下壁梗塞では,横隔膜に接する部位の心筋梗塞であるため,心窩部痛として自覚されることが少なくない.また,発症時に嘔吐を伴うことが多く,食道と胃に急性の病変が現れ,腹痛を訴える可能性もある.心エコーにて,左室壁運動異常を描出し,再還流療法を含めた迅速な対応が必要である.胸部,上肢,頸部などへの放散痛がある場合,特に心臓のスクリーニングが重要である.
心源性塞栓症: 左房内血栓による塞栓症や卵円孔開存を介した奇異性塞栓により上腸間膜動脈塞栓症などの腹部臓器の虚血が生じる.障害された腹部臓器に対応することは当然であるが,塞栓源を検索し,再発を防ぐことも必要である.経胸壁心エコーでは,十分な評価は困難であり,経食道心エコーによる精査が求められることが多い.その他,感染性心内膜炎の疣贅や粘液種などの心臓腫瘍からの塞栓症もみられる.
急性大動脈解離: 4分の3以上の例で,腹部大動脈に解離が及んでおり,その多くが軽度ながらも腹痛を合併している.解離による腹部臓器虚血で腹痛が生じることもある.エコーで,内膜フラップや解離腔を描出すれば,確定診断ができる.偽腔閉塞型大動脈解離では,三日月状の大動脈壁肥厚として観察されるが,偽腔が小さい場合は診断が困難であり,動脈硬化巣と鑑別しにくいこともある.大動脈解離は,十分な管理がなされなければ破裂などの致死的状態に至る可能性があり,エコーでスクリーニングすることが重要である.
Penetrating atherosclerotic ulcer: 大動脈壁の粥腫破綻によって生じる限局性の大動脈解離で,腹部大動脈に多い.解離が内膜付近に限局して無症状の場合も少なくないが,中膜の一定範囲に解離が進展すれば腹痛が出現する.エコーで,容易に診断される.大動脈の長軸像での観察が有用である.心エコーや腹部エコー時に併せて腹部大動脈を評価していれば,無症候性のpenetrating atherosclerotic ulcerが少なからず発見される.なお,粥種内のコレステロールが塞栓症となり,blue toe 症候群として現れることがある.この場合は,可動性プラークが認められることが多い.
腹部大動脈瘤破裂: 腹痛とショックをきたす代表疾患である.腹部大動脈瘤の存在と周囲の血腫がエコー診断の指標となる.内腸骨動脈瘤の破裂では,腹壁より深部にあるため,エコーでの観察が困難な場合が多い.感染性大動脈瘤では,仮性瘤を形成することがある.この場合,大動脈と周囲の感染巣との間で,to and froの血流が観察される.
炎症性大動脈瘤(後腹膜線維腫): 粥状動脈硬化が誘因となり,大動脈周囲に線維化と炎症が誘発される.他の部位の感染症により,大動脈壁の炎症や痛みが惹起されることもある.エコーでは腹部大動脈周囲の低エコー領域が観察され,マントルサインと呼ばれている.線維化により尿管が圧迫され,水腎症をきたす例もある.