Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション3
自覚症状に対応した領域を超えた超音波検査:腹痛の超音波検査による鑑別診断

(S201)

産婦人科における腹痛の超音波検査による鑑別診断

Ultrasonic diferential diagnosis for abdominal pain in Obstetrics and Gynecology

小林 浩一

Koichi KOBAYASHI

社会保険中央総合病院産婦人科

Department of Obatetrics and Gynecology, Social Insurance Chuo General Hospital

キーワード :

腹痛を呈する産婦人科疾患は,大きく分けると妊娠性と,非妊娠性に分けられる.妊娠性では,正常妊娠初期,流産,子宮外妊娠,黄体嚢胞,子宮筋腫合併妊娠,子宮破裂,常位胎盤早期剥離,陣痛発来などがあり,非妊娠性では骨盤内感染症(PID),卵巣出血,筋腫変性,卵巣嚢腫茎捻転,子宮内膜症性卵巣嚢胞(感染・破裂)などがありげられる.したがって,腹痛を訴えるご婦人に対しては産婦人科的には妊娠をしている可能性があるかどうかを確認することは欠かすことが出来ないといえる.
妊娠でない場合は,今度は腫瘍の有無を確認する必要がある.腫瘍があるとき最も頻度の高いと考えられるのは卵巣嚢腫の茎捻転であり,中でも皮様嚢腫が多い.皮様嚢腫は日超医分類で3型と呼ばれる濃い線状のscatterを伴うcystic patternを呈し,ときにHair ballと呼ばれる音響陰影を伴う構造がその中に見られる特徴的な超音波画像を呈する一方,ときに腸管ガス像との鑑別が困難なときがある.
子宮内膜症は,生殖年齢婦人の5〜10%に発生し,こちらもその頻度が増加している.細かいscatterを伴うcystic patternを呈し,超音波だけでもその診断は比較的容易であるが,ときに出血している卵巣嚢腫や出血性黄体嚢胞との鑑別が必要となることがある.近年子宮内膜症性嚢胞の悪性化が挙げられている.静岡県の大規模調査で卵巣子宮内膜症患者の46/6,398(0.72%)に卵巣癌の発生を見,コントロールからは7/57,165(0.012%)であり,卵巣子宮内膜症患者の卵巣癌発症の相対危険率は12.4(95%CI 7.9-17.3)と報告された.特に嚢胞径が大きく,閉経後,45歳以上,が相対危険率が高いとされており注意が必要である.
腫瘍以外では骨盤内感染症(PID)は,近年増加しており,性行為感染症がほとんどであることから,その背景として初交年齢の低下や複数のセックスパートナーの存在が挙げられる.その中で最も多いのはクラミジア感染症で,比較的透明な帯下の増加,下腹痛や性交痛,不妊などの症状を呈する.クラミジアには,マクロライド系が第1選択であり,今日ではジスロマック(250) 4錠1回内服が有用である.
卵巣出血は排卵期腹腔内への出血多量か,あるいは出血性黄体嚢胞の破裂であることが多いので,発症時の月経周期は黄体期となる.性行為を契機として発症することが多く,腹腔内大量出血例では手術が必要となることもあるが,中等量までで出血量が増量しない場合は保存的に経過観察が可能である.診断は,ダグラス窩を中心に子宮・卵巣周囲の出血像となるが,子宮外妊娠は忘れてはいけない重要な鑑別診断である.