Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション1
超音波による治療と安全性

(S193)

診断と治療における微小気泡の安全で効率的な応用

Safe and efficient use of microbubbles in diagnostic and therapeutic applications

工藤 信樹

Nobuki KUDO

北海道大学大学院情報科学研究科生体計測工学研究室

Biological Instrumentation and Measurements, Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University

キーワード :

【はじめに】
 超音波診断の分野で,微小気泡は超音波造影剤として広く利用されるようになって久しい.また,治療の分野への応用検討も盛んに進められており,超音波照射下での気泡のふるまいの理解がますます重要になっている.本稿では,超音波照射下において気泡が生じる熱的,非熱的作用について概観し,診断の安全性と治療効果の両面における気泡の重要性について述べる.

【イナーシャルキャビテーションとノンイナーシャルキャビテーション】
 音場内で気泡と音波が生じる相互作用を総称してキャビテーションと言う.水中で微小気泡が膨張・収縮する際,気泡が受ける力は大きく2つに分けられる.ひとつは気泡の振動に伴って運動する気泡周囲の液体が持つ慣性力であり,もう一つは超音波の圧力を含むその他の力である.気泡径の変化が小さければ後者が支配的となるが,前者は変化幅の増加と共に急速に増加し,膨張時の気泡径が初期径の2倍程度を超えると液体の慣性力が支配的になる.慣性力が支配的かどうかで気泡が周囲に与える作用は大きく変化するため,この点に着目してイナーシャル(慣性)キャビテーションとノンイナーシャルキャビテーションの2つに分類される.

【熱的作用】
 超音波を生体に照射すると音響エネルギが吸収されて,その部位の組織温度が上昇する.温度の上昇量は基本的に超音波の強度の時間平均と吸収係数の積に比例するが,発生した熱量は組織の熱伝導や血流による熱輸送により周囲に拡散するので,細く絞った超音波ビームを照射しても温度上昇の範囲は広がり,血流が豊富な部位では温度上昇が低下する.音場内に存在する微小気泡は,音響エネルギを吸収して膨張・収縮運動し,その運動エネルギはいずれ熱エネルギに変換されるため,熱の発生を増強する.この効果は,ノンイナーシャルキャビテーションでも,イナーシャルキャビテーションでも生じる.目的部位に特異的に蓄積する気泡や熱すると気泡になる液滴を用いて,必要な部分のみの加温を実現する試みがなされている.

【非熱的作用】
 非熱的な作用としては機械的作用や音響化学的作用が挙げられ,これらの作用にも気泡が大きな役割を果たしている.負圧を加えると気泡は膨張し,気泡周囲の液体は位置エネルギを得る.負圧が無くなると気泡は収縮に転じ,位置エネルギは周囲の液体の運動エネルギとなって気泡を圧縮する.イナーシャルキャビテーションが発生する条件では,気泡が等方的に圧縮されれば気泡内は超高温・高圧状態となって音響化学作用を生じ,非等方的に圧縮されると微小な流れを発生して機械的作用を生じる.
 超高温・高圧状態下では水分子の熱分解が起き,OH,Hラジカルが発生する.化学的活性が非常に高いため,生体組織に種々の影響を与えることが知られている.また,これを利用して薬剤の活性を高める音響化学療法も行われている.また,超音波照射により細胞膜の透過性を一時的に向上させるソノポレーションでも気泡を加えることにより効率が大きく上昇することが知られており,その機序の一つとして機械的作用の重要性が指摘されている.

【まとめ】
 微小気泡が,診断と治療の両面で利用されるようになってきている.超音波が短パルスと連続波を使い分けて診断と治療の両面で有効に利用されているように,微小気泡も何らかの指標を基準として使い分けを考える必要があろう.どのような指標が良いのか,現在診断で用いられているTIやMIの指標はこれで良いのか,今後さらに気泡と生体の相互作用を検討していく必要がある.