Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム16
産婦人科医が行う他領域超音波

(S189)

産婦人科医が診る他科領域骨盤内病変の超音波診断

Ultrasound diagnosis of other territorial pelvic disorders in gynecology

田中 善章

Yoshiaki TANAKA

萱島生野病院産婦人科

Obstetrics & Gynecology, Kayashima Ikuno Hospital

キーワード :

【目的】
 産婦人科領域の日常の超音波診断において,骨盤内病変を診た場合その病因や原因疾患に関して診断に迷う場合がある.また他科,特に外科領域病変の鑑別診断を依頼される症例も多い.また婦人科癌の手術に際して,リンパ節を始めとする転移の有無の診断は治療上重要である.よって他科領域に渡る原因疾患の婦人科的超音波鑑別診断について述べたい.
【対象疾患】
1)炎症性腫瘤を主所見とする疾患
 腫瘤形成を伴うPIDの場合,附属器炎以外に消化器由来の膿瘍を鑑別しなくてはならない.大腸穿孔は緊急手術の適応であるので診断が遅れてはならない.子宮摘出後の骨盤死腔炎や癌術後リンパ嚢胞は超音波にて診断は容易である.
 また医療安全意識の向上の結果最近は見られなくなったが,術後異物によるガーゼオーマなどは90年台までの超音波診断の報告がある.
2)腹水および類似疾患
 卵巣癌にともなう大量腹水貯留は婦人科的によく見る所見であるが,卵巣腫瘍を証明しない場合にmesotheliomaや肝炎に伴う腹水を鑑別する必要がある.また不規則な内部エコーを伴う隔膜状腹水で偽粘液腫を疑う場合には虫垂の腫大を検索しなくてはならない.
 卵巣嚢腫と誤認しやすい腹膜封入嚢胞は内部に卵巣など正常臓器を証明することが多いが,クモの巣状の癒着所見など幾つかの所見が報告されている.
3)神経因性膀胱
 高齢者で骨盤内に大きな嚢腫を証明する場合,他に正常卵巣を証明しないからと単純に卵巣嚢腫と診断するのは危険である.しばしば神経因性膀胱が含まれる.導尿にて鑑別は容易とはいえ,いつも注意を払っていないと誤診する.
4)リンパ節転移
 CTの解像能が向上しリンパ節転移の診断は容易になった.しかし超音波診断でも充分な診断が可能である.一つの方法として術中の水浸法による超音波診断は外腸骨血管との位置関係が明確にできる.
5)転移性卵巣癌
 対象としては卵巣腫瘍であるので他科領域診断ではないが,転移性卵巣腫瘍と考えられる症例においてその内部エコーから原発巣が類推できる場合がある.充実状の場合は胃癌が多いが,粘液性腫瘍類似像を示す場合は大腸原発を考える必要がある.逆に粘液性卵巣癌と考える場合には大腸からの転移を考慮しておく必要がある.
【結論】
 骨盤内は限局されたspaceではないため婦人科以外の臓器を原因疾患とする病変が出現する.また婦人科癌も骨盤内を進展,転移し進行する.婦人科医にとって,これら他科との境界病変との鑑別診断は治療方針の決定のために大変重要な事項である.