Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム16
産婦人科医が行う他領域超音波

(S188)

産婦人科医による下肢静脈超音波検査の必要性と有用性についての検討

The necessity and utility of duplex ultrasonography for gynecologists

椎名 昌美1, 保田 知生2, 土井 裕美3, 小谷 敦志4, 辻 裕美子4, 後藤 千鶴4, 橋本 三紀恵4, 平野 豊5, 山本 嘉一郎6, 星合 昊3

Masami SHIINA1, Chikao YASUDA2, Hiromi DOI3, Atsushi KOTANI4, Yumiko TSUJI4, Chiduru GOTO4, Mikie HASHIMOTO4, Yutaka HIRANO5, Kaichiro YAMAMOTO6, Hiroshi HOSHIAI3

1近畿大学医学部堺病院近畿大学医学部産科婦人科学, 2近畿大学医学部外科学, 3近畿大学医学部産科婦人科学, 4近畿大学医学部中央臨床検査部循環機能検査室, 5近畿大学医学部循環器内科学, 6近畿大学医学部堺病院産科婦人科学

1Obstetrics & Gynecology, Kinki University School of Medicine Sakai Hospital, Kinki University School of Medicine, 2Surgery, Kinki University School of Medicine, 3Obstetrics & Gynecology, Kinki University School of Medicine, 4Clinical Laboratory, Kinki University School of Medicine, 5Cardiology, Kinki University School of Medicine, Cardiology, Kinki University School of Medicine, 6Obstetrics & Gynecology, Kinki University School of Medicine Sakai Hospital

キーワード :

従来,本邦での肺塞栓,深部静脈血栓症の頻度は欧米に比べると低いとされてきたが,食生活の欧米化に伴う変化,肺塞栓という病態の認知度の上昇により近年増加しており,決して稀な疾患ではないと報告されている.特に産婦人科領域においては骨盤内腫瘍による静脈うっ滞,エストロゲン,悪性腫瘍等が凝固亢進状態を作り出していると考えられ,リスクはより高くなると考えられる.このため,一般外科領域と比較すると,血栓形成時期が早いため周術期血栓症の頻度が高くなっている可能性がある.
近年,術後肺塞栓症,深部静脈血栓症に対し,予防対策を行うことが一般的なものとなってきた.報告によると婦人科術後の肺塞栓症の発生率は欧米では0.3〜0.8%,本邦では0.8%であり,その差は意外と少ない.また,婦人科術後の深部静脈血栓症の頻度は本邦では10.8%,欧米では17〜20%と報告され肺塞栓症の主な原因とされている.周術期の血栓症には術後の対策が重要と考えられ,本邦でも術後の予防対策が実践されるようになってきた.
我々は周術期管理として術前に静脈血栓塞栓症を診断し,術後肺塞栓症,深部静脈血栓症を予防することを目的にスクリーニングを開始した.方法として,全手術症例及び妊婦に対し術前に血中D-Dimerの測定を行い,基準値を上回る場合に下肢静脈超音波検査を施行することとした.2003年7月から2006年12月までの婦人科手術症例1620例に対するスクリーニングの結果,術前深部静脈血栓症は151例(9.3%),術前肺塞栓症は7例(0.43%)認められた.術前血栓症と診断された症例の3分の2には自覚症状,他覚所見共に認めず,肺塞栓症においても有症状は2例のみであったことから,術前静脈血栓塞栓症の有無を診断することは極めて困難なものと考えられた.このスクリーニング法を用いた周術期血栓対策により,観察期間内の血栓症発症率は有意に低くなり,我々の予防対策法は有意義であると考えられた.また,無症状症例を術前に診断するためにもスクリーニングが必要不可欠である.
周術期管理において肺塞栓症の予防を行うことは非常に重要であるが,予防を行っても術後血栓症の患者を皆無にすることは困難である.欧米では予防対策を行っても血栓症は1〜2%発症すると報告されている.そこで周術期合併症を管理する上で術前血栓症の有無を診断し,対策を行うことが重要となってくる.しかし,手術,分娩等において緊急を要し,術前に十分な評価を行うことが不可能な場合,また,術後出血性ショック,術後安静期間等により検査室での検査が困難な場合にはベッドサイドでの検査が必要になる場合がある.そのような場合も下肢静脈超音波検査は非侵襲的かつ簡易に行える検査であり,有用であると考える.
産婦人科医師数が不足し,厳しい勤務環境がクローズアップされている昨今,産婦人科医による下肢静脈超音波検査への対応は困難なものである.しかし今後,緊急時の対応,総合的な周術期管理を考えると,産婦人科医による下肢静脈超音波検査の普及が望まれるのではないだろうか.当院での検査技師による対応状況と産婦人科医へのトレーニング状況を含めて報告,考察する.