英文誌(2004-)
シンポジウム
シンポジウム15
消化器領域における超音波診断基準の検証
(S184)
胆嚢癌超音波診断基準の作成と展望
Evaluation of the Criteria for Ultrasonographic Diagnosis of Gallbladder Cancer.
渡邊 五朗
Goro WATANABE
虎の門病院消化器外科
Head of the Department of Gastroenterological Surgery, Toranomon Hospital
キーワード :
胆道系の診断基準としては,日本超音波医学会誌上で2002年に「胆嚢癌の超音波診断基準」として公示された.まずその作成経緯は,1989年頃すでに胆膵研究部会において「膵癌診断基準」が完成に近づいており(1992年公示),当時の部会長北村次男先生のもとに胆嚢癌も作ろうということになり,筆者が主に関わることになった.しかし多彩な像を示す胆嚢癌だけあって,当時はまだ胆嚢癌の画像そのものの経験も少なく,まず症例を持ち寄って画像の検討から始めることになり,90年から1991年にかけて(当時の部会長は跡見裕先生)症例を比較的多く持つ施設からの提示をお願いして年に3,4回検討を行い問題点を拾い上げた.ちなみに‘胆道癌取扱い規約’で‘早期胆道癌’の概念が提示されたのは第3版(1992年)である.この間に組織としては日超医超音波診断基準委員会(田中元直委員長)内の小委員会として活動することになった.
診断基準の基本構造としては「肝腫瘤」と「膵癌」の診断基準に準じて,大きく①存在診断基準と,②質的診断基準に分け,前者は異常の有無を確診と疑診で表現し,後者で実際の画像につき鑑別診断とともに記述するという内容にした.胆嚢癌は多彩な像を呈するので‘腫瘤’か‘肥厚’の表現のどちらにあたるか,あるいは肥厚の基準をどうするか,そもそも壁の測定をどうするか.質的診断の部分でも,ポリープ(小隆起)とはどのくらいの大きさを言うのか,平坦浸潤型胆嚢癌の画像所見はどうか,慢性胆嚢炎や,腺筋腫症との鑑別が可能かなど多くの問題点があった.さらに用語については用語委員会とのすり合わせが必要であり,また英文表記も同時に行うなど多くの作業を要した.その間に早期胆嚢癌の概念の確立とともに,それらの画像の報告も散見されるようになってきたが,浸潤癌を含めその超音波画像解析については学問的に十分な検討がなされておらず.それは今現在も同様と言っていい状況である.結果多くの年限を費やすことになったので,質的診断はある程度形式的なものにとどまることになってしまったが,公示に至った次第である.
各疾患の画像の解析が十分に行われている領域であれば,一般向けの鑑別診断のガイドラインとしての診断基準にできると思うが,この領域ではむしろ今後の検討のための土台としての意義があると考える.機器の進歩により,胆嚢壁は内層の粘膜筋層も正常例で描出されるようになって,当然所見の読み込みも変わってくるようになる.画像の読みが壁の層構造をもとに解析されるようになれば,また一段違った鑑別診断の議論ができるようになるであろう.純粋にBモード画像のみでの解析報告の少ない昨今であるが,まだまだこの領域はBモード画像での細かな分析の余地があり,それに応じた新たな診断基準の作成過程そのものが学問的な進歩に貢献しうるものと考える.