Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム14
各領域におけるStrain Imaging の臨床応用とその開発

(S179)

乳房超音波組織弾性映像法の開発

Development of Breast Elasticity Imaging

植野 映

Ei UENO

筑波大学大学院人間総合科学研究科

Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba

キーワード :

I はじめに
 乳癌の組織はdesmoplastic reactionにより硬くなることは古くからいわれ,触診では重要な所見であった.リアルタイム超音波検査においても動的検査にて腫瘍の硬さは評価され,診断基準のひとつとなっていた.その硬さを超音波画像として表現することを目標として各地で研究されてきたが,わが国において世界に先駆けてその画像化に成功し,臨床応用が可能となった.
II 発展の歴史
 乳癌の硬さと可動性を評価するために外力を加えてリアルタイム画像で観察する方法はわが国において考案され,本学会の腫瘤像形成性病変の診断基準にも採用されてきた.この硬さを画像化するためにOphia, Bamberらが1990年の初めより研究に取り組んできた.椎名はBamberらとエラストグラフィの研究を進め,独自に考案した複合自己相関法によるエラストグラフィ開発した.山川はその中でスライス方向へのずれを補正する拡張複合自己相関法を考案し,その精度は向上した.日立の松村は白黒のエラストグラムをカラー化し,白黒画像に重畳することを考案し,評価を容易にするシステムを構築した.また,松村,植野,伊藤らは臨床所見を組み合わせてelasticity scoreを考案した.さらにその硬さの定量化を図るために植野,脇,椎名は脂肪と病変の歪みを比較するFat lesion ratioを考案した.そのほか新しいエラストグラフィも乳房用に開発されている.
III 弾性映像法の原理
1.複合自己相関法(Combined Autocorrelation Method)
 変位を計算するために包絡線を用いてはじめに位相を合わせ,次にその包絡線の中で変位を計算する.2回の自己相関を行っているため複合自己相関法といわれ,このアルゴリズムによりリアルタイムにエラストグラムを描出させることが可能となった.
2.組織ドプラ法(Tissue Doppler Imaging)
 超音波の進行方向に探触子を利用して組織を圧迫するとその組織の硬さに応じて組織と探触子との距離が変化する.これはその組織の移動速度を表しており,深部ほど累積して速度は速くなる.この移動速度を微分することによってその部分の組織の歪みが求められる.これがストレインと呼ばれるものである.このストレインもROIの中での相対的な歪みの量としてカラー表示される.
3.ARFI(Acoustic Radiation Force Impulse)
 音響放射圧を加えて,組織に歪みを与えて画像化する弾性映像法である.1〜4MHzの周波数の音をpush pulseとして100μsの間,放出して収束させ,組織に1〜20μmの歪を与えてその歪みを画像化する.
4.Share wave
 横波による組織の変位をとらえて組織弾性映像を結実させる方法である.定量性にもっとも優れている.
IV 乳腺疾患の診断基準
1.スコア分類
 定性的な診断基準としてはTsukuba Elasticity Scoreがある.これは低エコー域の色調をベースに判定するものである.低エコー域が青いものは悪性,その内部に緑が混入するものを良性としている.それぞれがさらに分類され,スコアを1〜5に設定してている.
2.ストレイン比Strain Ratio
 定性的な診断基準としてStrain ratioがある.乳房ではFLR(Fat lesion Ratio)が利用されている.これは,皮下の脂肪組織と病変部とを対比させたものである.その良悪性のカットオフ値は5.0が妥当と考えられている.