Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム12
超音波でしか診断できなかった消化器疾患症例

(S171)

体外式超音波は単なる非侵襲的な代替的検査法ではない

Ultrasound is by no means limited to an alternative use as a diagnostic modality.

畠 二郎1, 山下 都2, 眞部 紀明1, 今村 祐志3, 中武 恵子2, 竹之内 陽子2, 谷口 真由美2, 蓮尾 英明4, 楠 裕明4, 春間 賢3

Jiro HATA1, Miyako YAMASHITA2, Noriaki MANABE1, Hiroshi IMAMURA3, Keiko NAKATAKE2, Yoko TAKENOUCHI2, Mayumi TANIGUCHI2, Hideaki HASUO4, Hiroaki KUSUNOKI4, Ken HARUMA3

1川崎医科大学検査診断学, 2川崎医科大学付属病院内視鏡・超音波センター, 3川崎医科大学内科学食道・胃腸科, 4川崎医科大学総合臨床医学

1Dept. of Clinical Pathology and Laboratory Medicine, Kawasaki Medical School, 2Dept. of Endoscopy and Ultrasound, Kawasaki Medical School Hospital, 3Division of Gastroenterology, Dept. of Internal Medicine, Kawasaki Medical School, 4Dept. of General Medicine, Kawasaki Medical School

キーワード :

【背景と目的】
体外式超音波検査(以下US)は腹部の断層診断法として広く普及するに至ったが,近年ではより客観性に富むCTやMRIの著しい進歩により,急性腹症など状況によってはUSが省略されることも経験される.これらのmodalityはそれぞれが各疾患における診断能の優位性を個々の立場から強調しているが,果たしてUSが単に非侵襲性や簡便性のみを特徴とするalternative的な検査法であるのか,他のmodalityに無い診断能を備えたessentialなものであるかについては必ずしも明らかでない.そこでまずUSがその診断においてCTより優れていた症例に関し検討した.
【対象と方法】
USが優位であると判断する基準:CT診断は放射線専門医の読影報告書を参照し,最終診断は手術などを含めて総合的に判断した.US診断は最終診断と一致していたが,CT診断は最終診断と一致していないかまたは病変そのものが指摘されていない場合をUSが優位な症例とした.なお小さな肝血管腫や胆嚢コレステロールポリープなど,通常は治療を必要としない症例は除外した.検討項目1(USが優位であった症例数):対象は平成20年1月から12月の間に当院で経験年数3年以上の学会認定超音波検査士または超音波専門医が腹部超音波を施行した10037例(男性4742例,0歳 - 102歳,平均年齢58.7±18.7歳)を対象とし,USが優位であった症例数を算出した.検討項目2(US優位症例の分類):単一検者が当院でこれまで経験したUS優位症例に関してその原因別に分類した.
【結果】
検討項目1:10037例中81例(0.81%)においてUSが優位と判断された.検討項目2:USが優位な症例として以下が考えられた.①周囲と病変とのX線透過性に差が無い病変(X線陰性石など),②CTでは検出困難な小病変(小さな播種性結節やフリーエアーなど),③CTでは分解困難な病変(互いに近接した虫垂炎と憩室炎の鑑別など),④組織性状より組織構築の評価が診断に有用な病変(悪性リンパ腫と上皮性癌の鑑別など),⑤造影剤の特性により判定困難な病態(初期の絞扼性腸閉塞など),⑥リアルタイムな観察が有用な病変(ヘルニアの非陥頓例,癒着や蠕動低下など),⑦頻回の経過観察が診断に有用な病態(SH紫斑病の消化管病変など),⑧CTが施行困難な状況(小児,妊婦,安静保持困難,造影では腎不全,など).なかでも小さなフリーエアーの検出,虫垂炎の診断,腸管虚血の判定など,USが省略されがちな急性腹症においてもUSが優位な症例が数多く存在したことは注目に値すると思われた.
【考察】
本研究の問題点として,①retrospectiveな検討である,②CTが優位な症例を検討していない,③CTの性能が考慮されていない,などが挙げられた.本来modality間での診断能を冷静かつ公平に比較することは非常に困難であるが,少なくともUSでのみ診断可能な症例も存在することが明らかとなった.USは組織構築をリアルタイムかつ高分解能に評価できる検査法であり,非侵襲的で造影剤にも重篤な有害事象がない.これらCTにない特徴を生かすことが今後USの存在意義をさらに高める上で重要と考えられた.
【結論】
体外式超音波は他のmodalityに内包される検査法ではない.各modalityはその特徴を生かして相補的に用いられるべきであることは言うまでもないが,特に急性腹症において超音波を省略することは誤診の原因となり得る.