Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム10
一目見ておけば診断できるまれな心血管疾患

(S161)

人工弁置換術後の恐ろしい所見

Terrible disorder of post prosthetic valve replacement cases

谷本 京美

Kyomi TANIMOTO

東京女子医科大学循環器内科

Cardiology, Tokyo Womwn’s Medical University

キーワード :

人工弁置換術後に評価する必要のある所見としては
1.血栓,パンヌスの形成など
2.弁周囲逆流
3.感染性心内膜炎
4.生体弁の変性による狭窄
5.生体弁の劣化による亀裂
6.人工弁の離脱(dehiscence)
7.人工弁による左室流出路狭窄
8.人工弁縫合部の仮性動脈瘤,ろう孔 があげられるがこれらの病態のほとんどは人工弁の狭窄または逆流またはその両者を示す.
A.逆流
人工弁の逆流には弁そのものからの逆流(経弁逆流)trans valvular leakage)と弁座と周囲組織の間からの逆流(弁周囲逆流paraまたはperi valvular leakage)に大きく分けることができる.機械弁では溶血や弁開放のため弁座とディスクの間に間隙のある構造の特性があり,ごくわずかな経弁逆流が観察されるのは正常であり,機能的逆流といわれる.臨床的に弁周囲逆流が疑われた場合経食道心エコーで弁周囲逆流の確認を行う.弁周囲逆流による溶血は逆流量のむしろ小さなもので生じるため注意が必要である.
生体弁では経年変化による弁の肥厚や硬化,開放制限とともに弁の変性による弁の亀裂(cuspal tear)が生じ,このため急性弁逆流を認める.
B.狭窄
人工弁の狭窄をきたすものとして血栓,パンヌス形成(pannnus),疣腫,縫合糸,弁下組織などがあげられるが,最も頻度の高いものは血栓である.生体弁では弁組織そのものの硬化,石灰化によるものが多い.生体弁では術後7-8年を過ぎると少しずつ弁の変性が進んでくる.血栓弁の多くは抗凝固療法が不十分であった時などに見られる.弁を通過する血流速度は弁口を通過する血流量に依存し,狭窄による場合には僧帽弁位ではPHTの延長(>150ms)が,大動脈弁位ではLVOTTVI/AVTVI比の減少(≦0.2)が認められる.
C.経食道心エコーの有用性
人工弁機能評価として経胸壁心エコーをスクリーニングとして行うが,人工弁アーチファクトのため詳細な観察ができない場合がある.機能不全の疑いがある場合には経食道心エコーによる観察が必要である.
D.基礎疾患や再弁置換術後症例にたいする注意点
弁周囲組織の脆弱性を有する疾患(感染性心内膜炎,血管炎やその類縁疾患ベーチェットなど)を基礎疾患とする場合や複数回の弁置換で前よりも小さい弁しか装着できなかったり,弁周囲の縫合部位が脆弱となる場合などは,術後に弁周囲逆流が生じ溶血やLDH高値や貧血の進行などが問題となることがある.個々の症例の背景も把握し検査に臨む必要がある.
心エコーのみでは不十分と考えられた場合には弁透視などの他の手段を使用して症例の病態の原因究明に近づく努力が必要である.
●急激に進行する大動脈弁閉鎖不全と術後の弁周囲の脆弱性を示す病態について実例を挙げながら診断,所見の解説を行う.