Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム10
一目見ておけば診断できるまれな心血管疾患

(S160)

弁膜の異常

Valvular disease

田中 教雄

Norio TANAKA

国立循環器病センター生理機能検査部

Division of physical diagnosis, national cardiovascular center

キーワード :

 心エコー検査の歴史を振り返ってみると,最初に登場したのがMモード法である.一本のビームで心臓内を色々と検索し,心内構造物の異常,動き,大きさを観察したものであった.画面に映し出されるMモード像のみから頭の中で心内の構造を構築し様々な異常を診断していくわけである.現在の心エコー法からすれば,それは並大抵なことではなかったが想像力は非常に養われたように思われる.次に登場したのは断層法である.画面上に心臓の断層像が映し出され,しかもリアルタイムで動いている.心臓の動きや大きさと形,壁の厚さ,弁膜の動きまでがはっきりと分かる.さらには長軸断面,短軸断面など多方向から観察することも可能である.それまでのMモード像から心内の構造を想像していたことを思うとこれは画期的であった.この次に登場したのはドプラ法であり,殊にカラードプラ法の出現はまさに画期的であったといえる.それまでは心内の血流動態を観察するためには,造影検査など観血的手法に頼らざるを得なかったのが,非観血的にしかもリアルタイムに診ることができる.弁逆流や短絡疾患の存在のみならず,その程度までも分かる.連続波ドプラ法を用いれば,心内圧の推定や,弁狭窄の重症度が分かり,パルスドプラ法を用いれば心機能評価も可能である.
 このように,今では心エコー検査は循環器疾患の診断,治療法の選択や効果判定になくてはならない検査法であることはいうまでもない.
 さて,このシンポジウムで私に与えられたテーマは「弁膜の異常」である.皆さんは心エコードプラ法を使って弁膜の異常をどのように診ているのでしょうか.弁の硬化があって開放制限があれば弁狭窄とみなし,その重症度評価のために,弁口を直接トレース,あるいは連続の式やPHT法を用いて間接的に弁口面積を求める.また,カラードプラ法で観察すると弁逆流があることが分かれば,その重症度を定性あるいはPISA法などを用いて評価をする.このようなことに重点をおいて検査をされてはいないでしょうか.確かに重症度評価は当然必要なことである.しかし,これだけでよいのであろうか.大動脈弁が狭窄していれば,その原因,すなわちリウマチ性か動脈硬化性かそれとも2尖弁なのか,リウマチ性なら癒合しているのはどの弁尖なのか.僧帽弁狭窄であれば,弁尖・弁下組織の変化はどの程度か,両交連部それぞれの癒合の程度や石灰化の有無など.大動脈弁逆流や僧帽弁逆流ではなぜ逆流が生じているのか.すなわち,狭窄にしても逆流にしても弁膜の形態をよく観察し,その原因を追及することが大切である.もう一つ大切なことは,先入観にとらわれないことである.弁逆流の場合を例にとると,必ずしも弁尖から逆流しているとは限らない.どこから逆流しているのかをカラードプラ法でよく観察することである.弁尖からでなければどこからの逆流なのか,形態はどうなっているのかが大切である.また,背景となる疾患や術式なども参考にすることも観察する際の一助となることもある.
 心エコードプラ検査は経験学習が大切である.先に述べたような,色々なことを踏まえて「よく観察する」ことは,経験学習へとつながる.「色々なこと」とは経験からくることが多い.先入観から見落とした症例,思いもよらない症例や珍しい症例はよい経験であり,一歩踏み込んだ検査を行っていくうえでの糧となるのは間違いない.