Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム10
一目見ておけば診断できるまれな心血管疾患

(S159)

右心系の異常

Abnormality of the right heart system

戸出 浩之, 岡庭 裕貴, 樋口 ルミ

Hiroyuki TOIDE, Hiroki OKANIWA, Rumi HIGUCHI

群馬県立心臓血管センター技術部

Cardiovascular Echo Laboratory, Gunma Prefectural Cardiovascular Center

キーワード :

 心エコー検査では,比較的稀な病態でも,知っていれさえすれば診断の容易な疾患が少なからず存在する.ここでは,右心系に異常のみられる2疾患について症例を提示し解説する.
【症例1】
71歳女性.胸骨左縁第2肋間にLevine / Yの連続性雑音を聴取し,CT検査にて肺動脈に接する巨大腫瘤を認めた.心エコー検査では,傍胸骨短軸断面にて肺動脈起始部肺動脈弁位左前方から左室乳頭筋レベル近傍におよぶ約60mm径の巨大管腔構造を認め,カラードプラ法にて管腔より肺動脈弁直下の肺動脈主幹部に吹き出す拡張期優位の連続性血流と,それに隣接して前胸壁側やや右方より異常管腔内に流入する血流が観察された.また右冠動脈起始部は約8mm幅に拡張していたが,左冠動脈は拡張なく異常血流も認めなかった.以上より,右冠動脈肺動脈瘻+巨大冠動脈瘤と考えられた.<冠動脈瘻> 冠動脈瘻は冠動脈末梢の一部が心腔内や,肺動脈などに開口する先天性心疾患である.瘻血管の多くは右冠動脈およびその分枝より単独で生じるが,両側冠動脈より同時に起始する症例もある.また開口部は,肺動脈,右室,右房といった右心系に開口するものが大半を占め,左心系に開口するものは稀である.本症の発生は心腔内に開口する型と肺動脈に開口する型とで異なっており,心腔内に開口するものは胎児期に心筋内に見られたsinusoidの残存によるもの,もしくは冠動脈と心腔内とを繋ぐanterio-luminal vesselが拡張したものとされる.一方,肺動脈開口例は,胎児期に肺動脈幹より発生するcoronary budと冠動脈が異常な交通をもつことで発生する.右室流出路・肺動脈弁下部(円錐部)には右冠動脈および左冠動脈からの円錐枝ないし円錐動脈が分布しており,この血管が瘻血管であった症例も報告されている.本症との鑑別疾患として,連続性雑音を呈する動脈管開在症,Valsalva洞動脈瘤破裂などを念頭におく必要がある.特に肺動脈に交通する冠動脈瘻と動脈管開存症の鑑別が必要となるが,短絡部位の同定,冠動脈の拡張の有無などに注意すれば鑑別は難しくはない.
【症例2】
48歳男性.以前より動悸を自覚し心室性不整脈を指摘されていた.他院MRIにて不整脈源性右室心筋症と診断され,今回アブレーション目的にて当院紹介となった.心エコー検査では,右室側壁の突出と壁運動の低下,内膜面の肉柱構造の発達を認めた.三尖弁逆流は軽度で,右心圧の上昇所見は認めなかった.左室の形態的・機能的異常は確認されなかった.当院CT検査にて,右室の拡大と肉柱の発達,右室心筋内の脂肪沈着が確認された.
<不整脈源性右室心筋症> 不整脈源性右室心筋症(ARVC; arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy)は,右室の形態的・機能的異常を有し,右室起源心室性不整脈を主徴とする疾患である.病理学的には右室心筋の著しい脂肪浸潤や線維化をきたす病態をいう.病因は遺伝的要素が強く,30-50%に家族歴を認め,近年の遺伝子研究の進歩により病因の解明がなされつつある.右室の限局した拡大と心筋の菲薄化がみられ,好発部位は右室流入路,流出路,心尖部であるが,右室全域や左室にも及ぶ場合もある.心エコー検査では,右室の拡大,右室壁の菲薄化,瘤形成,心尖部の鈍角化などがみられ,局所あるいは広範な壁運動異常を呈する.心腔内血栓の有無にも注意する必要がある.右室収縮期圧は正常ないし軽度上昇する程度で,高度な右室圧上昇があれば本症は否定的である.