Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム9
超音波診断と治療技術の融合

(S156)

相変化ナノ液滴による分子診断と治療の可能性

Ultrasonic molecular targeted imaging and minimally invasive therapy with phase change nano droplet

川畑 健一1, 浅見 玲衣1, 東 隆1, 佐々木 一昭3, 梅村 晋一郎2

Ken-ichi KAWABATA1, Rei ASAMI1, Takashi AZUMA1, Kazuaki SASAKI3, Shin-ichiro UMEMURA2

1日立製作所中央研究所ライフサイエンス研究センタ, 2東北大学電気通信工学科, 3東京農工大学大学院共生科学技術研究院動物生命科学部門

1Life Science Research Center, Central Research Laboratory, Hitachi, Ltd., 2Department of Electrical and Communication Engineering, Tohoku University, 3Institute of Symbiotic Science and Technology Division of Animal Life Science, Tokyo University of Agriculture and Technology

キーワード :

現在,PET(Positoron Emission Tomography)に代表されるように,特定の部位への選択性を持つ造影剤を用いる,いわゆる分子イメージングの研究・開発が盛んである.超音波診断装置は手術室などに持ち込めるほど小型で,かつリアルタイムな画像化が可能であり,超音波を用いた組織選択的なイメージングは治療支援などへの利用価値が高いと考えられる.特に,超音波は診断のみならず治療への適用も可能でことから,腫瘍を可視化し,その部位を選択的に治療する診断・治療統合システムにつながると期待される.

超音波診断用の造影剤としては,マイクロバブル(MB)が広く使われており,特に血管の造影に優れた効果を示す.さらには,近年MB存在下で超音波照射を行うと,温度上昇が促進されることから,MBは造影剤としてのみでなく,超音波加熱凝固治療の増感剤としても期待されている.しかしながらMBを上記のような腫瘍の早期診断・治療システムに応用するには,サイズが大きく腫瘍組織への漏出が見込めないことが課題である.さりとて,血管漏出性を持たせるべく,より小さいサイズのバブルあるいは微粒子を用いると,超音波造影能および治療増感作用がMBに比べ著しく劣る.このような状況に鑑み,我々は,腫瘍診断・治療を目的とし,MBの造影能とナノ微粒子の腫瘍到達性を両立するため,体内投与時はナノサイズの液滴で,超音波パルスにより目的部位のみで気化しMBを生成する造影剤および造影システムの開発を行っている.
 相変化ナノ液滴と名づけたこの新規造影・増感剤は,過熱状態の液体パーフルオロカーボンをリン脂質などの界面活性剤によりナノサイズの微粒子としたものである.この微粒子は3 MPa程度の超音波負圧により過熱状態が解消され液体から気体に変化してMBとなる.沸点の異なるパーフルオロカーボンの配合を変えて混合することにより,過熱が解消される超音波強度を変化させることができる.

この相変化ナノ液滴を用いる超音波イメージングおよび治療に関して検討を行っている.まずイメージングに関してはマウス・ラットおよびウサギを用いた検討により,腫瘍内のターゲット部位のみでMBを生成させることができることを確認した.さらに,相変化ナノ液滴の表面に腫瘍細胞を認識するモノクローナル抗体を付加することにより,マウス腫瘍組織への親和性が向上し,抗体を付加しない液滴に比べ約2倍長い時間MBを生成できる状態で腫瘍部位に留まることがわかった.
また,治療増感剤としてのナノ液滴としての効果に関しては,まず2MHz以上の比較的高い周波数の治療用超音波を用いた検討を行った.マウス皮下移植腫瘍において,超音波単独に比べ1/2以下の音響強度で相変化ナノ液滴共存により組織壊死が観察されたことから,相変化ナノ液滴の治療増感剤としての効果が確認できた.さらに周波数1MHzにて検討を行ったところ,焦点部では機械的と思われる組織破壊が,また焦点辺縁部では加熱凝固が確認された.超音波照射時に得られる音響信号を解析しキャビテーション生成が示唆されたことから,相変化ナノ液滴と1MHz超音波との組み合わせはキャビテーションの作用と温度上昇とのふたつの機序による腫瘍治療へつながるものと期待される.
このような知見を基に,相変化ナノ液滴を用いる超音波診断・治療統合システムの実現を目指す.

本研究の一部は,医療福祉機器研究開発制度の一環として,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託により行われたものである.