Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム9
超音波診断と治療技術の融合

(S156)

超音波治療に関する基礎研究の現状と展望

State of the Arts on Fundamental Research of Terapeutic Ultrasound

松本 洋一郎

Yoichiro MATSUMOTO

東京大学工学系研究科機械工学専攻

Mechanical Engineering, The University of Tokyo

キーワード :

低侵襲の治療法の具体例として,HIFUを用いた方法が注目されており,数多くの臨床例が報告されている.HIFUでは,体外から強力集束超音波を体内で焦点を結ぶように照射し,焦点付近の体組織を加熱凝固・壊死させるため,患部を非侵襲かつ選択的に治療する.つまり,超音波が伝播する際の減衰エネルギーが熱エネルギーに変換され,集束させることによって患部で大きな発熱効果を得ることが可能である.通常,一回のHIFU照射で数mmオーダーの楕円形の加熱凝固領域が形成されるが,腫瘍の大きさは数cmから時には10cm以上になるため,超音波の焦点をスキャンすることで腫瘍部位全体を加熱凝固する手法をとっている.また,体組織の加熱凝固による細胞の壊死は,56℃で1秒以上加熱すると起こることが知られているが,HIFUによって焦点付近の温度が80℃以上になることが確認されており,温度を精密にモニタリングしなくても十分に細胞壊死を引き起こすことが可能であるという利点も持つが,幾つかの問題点も存在する.一つは,皮膚や他の臓器への影響である.脳腫瘍の場合は頭蓋骨が,肝腫瘍の場合は肋骨,脂肪,他の臓器などが超音波エネルギーを反射・吸収してしまうため,患部に十分な超音波エネルギーが到達しない恐れがある.しかしながら,超音波強度を大きくしすぎると,皮膚の火傷や他の臓器の意図しない箇所での組織の焼灼が発生するという問題が発生する.また,部位によって音響インピーダンスが異なり,超音波は非均質な場を伝播して焦点を結ぶことになり,焦点位置が定位しない恐れもあり,焦点位置の制御は大きな問題である.さらに,治療時間の長さも問題である.一回のHIFU加熱凝固領域は数mmであるため,超音波の焦点をスキャンする必要がある.肝腫瘍を例にとると,2cmの領域を加熱凝固させるのに1時間,10cmになると5時間もしくはそれ以上要するとされている.超音波強度の過度の増大は大きな副作用を伴う恐れもあるため,何らかの方法を用いなければならない.「加熱作用の増強剤」として超音波造影剤などのマイクロバブルの利用が可能である.このようなマイクロバブルを診断時だけでなく,治療にも利用する研究が進行している.マイクロバブルに超音波を照射すると,振動して発熱するが,この発熱を用いて加熱効果を増強し,治療部位をわずかな超音波エネルギーで十分な加熱凝固が可能となる.同様に,キャビテーション気泡が生じることでも高い発熱効果が得られるとの報告もあり,積極的にキャビテーションを利用しようとする報告もある.いずれにしても,温度の急激な上昇や加熱凝固形状が複雑になるなど,不安定な現象であるキャビテーションを制御することや,発熱体であるマイクロバブルの空間分布の制御などが重要な課題となっている.ここでは,超音波治療に関する基礎研究の現状と将来動向を展望する.