Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム9
超音波診断と治療技術の融合

(S155)

前立腺癌に対する超音波監視下HIFU療法:10年間の臨床成績

High-intensity focused ultrasound (HIFU) for prostate cancer: 10 year experience

内田 豊昭, 小路 直, 中野 まゆら, 長田 恵弘

Toyoaki UCHIDA, Sunao SHOJI, Mayura NAKANO, Yoshihiro NAGATA

東海大学医学部八王子病院泌尿器科

Urology, Tokai University Hachioji Hospital

キーワード :

目的:超音波を強力にして,かつ光を集めるように凹面のレンズからある1点(焦点)に集まるように照射すると,その焦点領域温度を100度近くまで上昇させることが可能となる.高密度焦点式超音波(HIFU)療法は,コンピューターコントロール下に上述の強力超音波で特定の臓器(ここでは前立腺)を100度近くまで熱することにより治療する方法である.今回は,HIFU療法の前立腺癌に対する10年間の臨床成績について報告する.
対象と方法:対象は,stageT1-3N0M0の限局性前立腺癌で,治療にはソナブレート200(S200,1999-01’),500(S500,2001-05’),500 ver. 4(V4,2005-08’)(Focus Surgery,IN,USA)の3種類を用いた.これら3種類とも,治療域を描出するモニターと治療のプログラム出力を調整するコンピュ—ターが内蔵された本体,肛門から挿入する経直腸プローブ,プローブ内の温度を16度以下に調節する持続還流式冷却装置からなっている.治療方法は腰椎麻酔下に開脚位とした後,プローブを肛門から挿入する.ついで前立腺の超音波画面から治療領域を設定後,前立腺全体照射する.プローブから発射された強力超音波は,3x3x12mmの小さな焦点領域を80-98度まで上昇するように設定され,コンピューターコントロール下にこの小さな領域が600-2000個少しづつ重なるように移動,最終的に前立腺全体を照射することによって癌を治療する.治療自体,身体に傷はつけず出血もない.効果判定には,Phoenix ASTROの効果判定基準 (術後PSA値が最低値から2.0ng/ml以上上昇した場合)により,Kaplan-Meier法にて計算した.
結果:1999年1月から,892例の限局性前立腺癌に対してHIFU治療を施行した.このうち,HIFU療法後1年以上経過した633例について各機器別に集計した.S200(32例)の平均年齢および手術時間は71歳と174分,S500(407例)は68歳と123分,V4(224例)は67歳と68分と,手術時間は有意に短縮した(p<0.0001).S200群(32例)の5年生化学的非再発率は56%,S500群(407例)は53%,V4群(224例)は83%(3年目)とV4群が有意に上昇した(p=0.0008).ちなみに,V4群のリスク群別3年目生化学的非再発率は,低リスク群95%,中リスク群88%,高リスク群65%(p=0.0003)であった.
考察:局所性前立腺癌に対するHIFU療法の長所として,①身体に傷がつかない,②何回でも繰り返し治療することが可能である.③放射線療法など他の治療法後に前立腺に再発が認められた場合でも治療可能.④短期間の入院(外来治療〜3泊4日),⑤他の方法に比べると合併症が少ない,⑥手技が簡単,⑦医療コストが安い,などの利点が挙げられる.一方,①前立腺体積が50ml以上の大きな前立腺,②前立腺内に大きな結石がある,症例は不適である.
結論:全ての癌が,薬のみで完全に治せることは人類の夢である.たとえ薬で治せないにしても,身体を傷つけることなく外来で癌を治療することは患者にとって大きな福音である.HIFU療法はその可能性を持っている.本療法は,身体に傷をつけずに治療し,かつ高い臨床効果と患者のQOLの向上が期待できる治療法である.