Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム8
経頭蓋超音波検査の最前線

(S151)

急性期脳梗塞の経頭蓋超音波検査(血栓溶解含む)

Transcranial Doppler and transcranial color-coded flow imaging in patients with acute ischemic stroke

古賀 政利, 峰松 一夫

Masatoshi KOGA, Kazuo MINEMATSU

国立循環器病センター内科脳血管部門

Cerebrovascular Division, Department of Medicine, National Cardiovascular Center

キーワード :

超音波による頭蓋内血管の評価は困難と考えられていたが,1982年にAaslidらが2MHzのパルスドプラ波を用いると側頭骨窓から頭蓋内動脈の血流信号を測定できることを報告して以来,経頭蓋超音波ドプラ検査(transcranial Doppler ultrasonography, TCD)は広く臨床応用されるようになった.1980年代後半に,古幡,土谷らは,頭蓋内血管を二次元表示する方法である経頭蓋カラードプラ検査(transcranial color flow imaging, TC-CFI)の有用性を報告した.TC-CFIを用いると血流信号の角度補正が可能となり,より正確な血流速度を評価できる.急性期脳梗塞症例では,TCDは主に微小栓子シグナル(high intensity signals, HITS / microembolic signals, MES)の評価に有用で,脳梗塞の病態評価や奇異性脳塞栓症診断,および抗血栓薬の効果の評価に用いられている.TC-CFIは,主に主幹脳動脈の狭窄・閉塞性病変評価,側副血行の評価に用いられている.
TCD / TC-CFIのメリットは,その非侵襲性と簡便性(ベッドサイドで繰り返し施行可能)である.急性期脳梗塞のtherapeutic time windowは3〜6時間と非常に短く,このwindow内におこる閉塞動脈の再開通現象がその後の良好な経過と強く関連する.このような短時間に,脳血管造影検査やmagnetic resonance angiography (MRA)を何度も繰り返すことは困難であり,このときに血管の閉塞・開通状態をモニターできる手段はTCD / TC-CFIのみである.デメリットの第一は,4割近くの脳血管障害例で検査に不可欠な側頭骨窓が得られないことである.特に高齢女性ではTCD / TC-CFIは不可能な場合が多い.不良な側頭骨窓から対象血管の血流信号が検出できなくても,必ずしも対象血管の閉塞を意味しないことに注意する必要がある.また,TC-CFIではcomputed tomography (CT)やmagnetic resonance imaging (MRI)に比べると解像度が劣り,検査結果も検査者の技量の影響を受けやすい.本検査法の技術普及のためには,教育研修システムの確立が不可欠である.
最近,経静脈投与組織型プラスミノゲンアクチベーター(t-PA)による超急性期血栓溶解療法時にTCDやTC-CFIを併用することで閉塞血管の再開通率が改善することが報告され注目されている.t-PA,TCDに超音波造影剤(Levovist)を併用すると再開通率が更に向上することも示唆されている.古幡らは,500kHzの低周波経頭蓋超音波血栓溶解法の安全性と有効性を前臨床で確認し,その治療ユニットと既に臨床応用されているTC-CFI診断ユニットを組み合わせた一体型装置を開発中である.本装置の開発・臨床応用は,科学技術基本法によるスーパー特区課題(2008年)の一つに採択された.我々も分担研究者(峰松),研究協力者(古賀)として参画し,近い将来の臨床治験のための基礎データを収集している.近い将来に,本療法が急性期脳梗塞の更に有用な治療手段となる可能性がある.