Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム4
動脈硬化に迫る

(S134)

血管機能

Vascular function

東 幸仁

Yukihito HIGASHI

広島大学大学院医歯薬学総合研究科・心臓血管生理医学

Department of Cardiovascular Physiology and Medicine, Hiroshima University Graduate School of Biomedical Sciences

キーワード :

血管内皮に関する研究がスタートして30年近くが経過した.これまでの膨大な知見の集積に加えて,現在も,血管内皮に関する基礎的臨床的な新たな発見や可能性が報告されている.特に,血管内皮に関連した動脈硬化発症における多彩な分子機能が明らかにされている.酸化ストレス,炎症,脂質の蓄積などが単独にあるいは相互作用しながら動脈硬化に関与している.これらの因子による直接あるいは血管壁細胞を介した血管内皮への障害機転により結果的に血管内皮障害を惹起する.血管内皮障害は,動脈硬化発症の引き金となり,動脈硬化の進展から粥種の破綻による心筋梗塞,脳卒中などの血管合併症をきたす.血管内皮は動脈硬化の進展とともに障害され,障害された血管内皮がさらに動脈硬化を進展させるという悪循環を形成しながら動脈硬化形成に深く関与すると考えられている.動脈硬化の第一段階として血管内皮障害発症メカニズムの解明や治療の介入による血管内皮障害改善に伴う血管合併症発症抑制への期待は大きい.動脈硬化は血管代謝(血管内皮機能)という側面からも捉えることができる.
上記のごとく,分子生物学的手法により血管内皮細胞自体の動脈硬化への関与の機序が詳細に検討されている.さらに,血管機能も血管自体をリング状に切り出して血管内皮に対する薬理学的検討が可能である.NO合成酵素欠損モデル動物も血管内皮に関与する様々な病態を解明に大きく寄与している.これら基礎的検討による血管内皮機能の評価法が確立されている.ヒトにおいても,血管機能(血管内皮機能)を評価するために様々な試みがなされている.現在最も広く用いられているのは血管エコー(超音波)によるflow-mediated vasodilation (FMD)の測定である.FMDは四肢の虚血反応性充血後の血管径の変化を評価する(FMD = (駆血解除後の最大血管径—べースラインの血管径)/べースラインの血管径)ものであり,導管血管レベル(血管径2.5〜5.5mm程度)での血管内皮機能を反映している.FMDは簡便かつ非侵襲的で,検査時間も比較的短時間であり,被検者への負担も少ないが,やや特異性に欠けるというデメリットも有している.血管が一過性の虚血から解放されると血管内皮細胞からFMDの成因に最も重要なNOをはじめとした様々な生理活性物質が放出されることが知られている.駆血解除時のシェアストレスの増加がNOの産生増加を惹起しているが,その詳細な機序は不明である.
血管内皮機能を測定することは臨床上非常に有意義であることは疑いない.FMDは今後も広く普及する可能性がある.しかし,同法は再現性の問題をはじめとして多くの課題,問題点を内包している.FMD測定の長所,短所,特に測定上のピットホールを熟知することが肝要である.今後,さらなる知見の集積により,血管内皮機能測定が正確に行われるようになることを願いたい.血管内皮機能測定は動脈硬化の治療ターゲットとしてあるいは心血管イベント発症のサロゲートエンドポイントとしての可能性も大いに期待できる.大規模臨床試験やコホート研究での利用も可能となってくる.今後,FMD測定の日本ならびに世界的な標準化やさらなる新たなディバイスの開発も望まれる.