Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム3
基礎と臨床から超音波診断の問題点を見直す−精度・アーチファクト・限界−

(S132)

血流量定量化の精度と誤差

Accuracy and errors in quantitative measurement of volumetric blood flow

岩永 史郎

Shiro IWANAGA

慶應義塾大学循環器内科

Department of Cardiology, Keio University

キーワード :

血流量定量化は心疾患の重症度評価に用いられ,手術適応判断に不可欠であるが,その測定精度についての検討は少ない.逆流量やシャント量を定量化する場合,パルスドプラ(PW)法かPISA法が用いられる.僧帽弁閉鎖不全(MR)の逆流量(RV)と有効逆流口面積(ERO)測定における誤差混入の要因と測定精度について考える.
 PW法で逆流量は左室流入血流量(SVm)と一回拍出量(SVa)の差で求められる.SVaは左室流出路(LVOT)で測定されることが多い.
1. LVOT径Daと断面積Aa=π×Da2/4
 LVOTが計測中に変化しない正円形という仮定がある.二乗される径の測定誤差が大きく影響する.プローブから5 cm深の径(2 cm)を計測するモデルで,プローブが3度傾くとDaは5.1%,Aaは10%過小評価される.また,Daは収縮期に9%短縮し,Aaを約17%過小評価させる.
2. LVOT血流の時間速度積分値(VTIa)からSVa=Aa×VTIaを計算
 速度分布が均一と仮定しているが,中隔(IVS)側より僧帽弁(MV)側は速度が遅い.中央のみで計測するとSVaは過大評価される.LVOT内が乱流だと正確な計測はできない.ドプラ入射角も誤差要因であり,入射角≦20度では誤差6%以内に収まるが,>30度では誤差が13%を超え,角度補正しても大きな誤差を生む.
3. MV弁輪径を心尖部四腔・二腔像で測定(D1,D2),断面積Am=π×(D1/2)×(D2/2)を計算
 MV弁輪は四腔像を長径,二腔像を短径とする計測中に変化しない楕円形と仮定する.最大径を持つ断面の描出は困難で,径は拡張期中に変化する.この仮定は不確実で,Amも大きな誤差を持つ.
4. 弁輪中央のVTImを測定し,RV=Am×VTIm-SVaを計算
 弁輪内速度は均一という仮定があるが,IVS側と比べ側壁側の速度は遅い.速度分布は不均一で,中央のみの計測ではSVmが過大評価される.
 PISA法では吸込み血流の大きさでEROを算出する.
1. 吸込み血流は,最も大きく観察できる断面像で折返し速度を下げて大きく描出し,最大となる時相で半径rを測って表面積A=2πr2を計算
 広い空間から平板上の小さな穴に液体が収束すると半球形の等速度面を作る.逆流口近傍の血液が,逆流口からの距離を半径とする半球表面積に反比例して加速されると仮定する.しかし,高度MRでは逆流口が大きく,その近傍で等速度面が平たくなる.また,弁は鞍状で,逸脱などの病変により変形する.半球形での近似が困難な例は少なくない.例え吸込み血流が半球形でも,カラードプラ法で観察すると半球形にはならない.ドプラ法は血流速度ではなく,超音波ビーム方向の速度成分を計測する.吸込み血流が作る半球表面の血流速度が均一でも,ビーム方向から離れると速度成分は小さくなる.血流と超音波が平行な場所以外では半球上の速度成分は血流速度よりも遅く,折返しを生じないため,吸込み血流は半球形に表示されない.
 また,RT3DE法で観察した機能的MRの吸込み血流は両尖接合面に沿って細長いと報告された.さらに,プローブと弁の位置関係が収縮期中に変化すると正確な計測はできない.
2. 折返し速度V1から瞬時逆流量=A×V1を計算
 装置に表示される折返し速度は中心周波数,音速,パルス繰返周波数などからの計算値である.精度については不明である.
3. MR最大流速Vmaxを計測し,ERO=瞬時逆流量/Vmaxを計算
 Vmaxとrは同時相で測定しなければいけない.最大瞬時逆流量とMR最大流速の時相が一致しない例があり,特に機能的MRのrは収縮中期に最大ではないと報告された.
 血流量定量化は誤差混入の要因が多く,常に正確であるとはいえない.血流量は血行動態変動で変化するものでもあり,特に手術適応判断には結果を盲目的に信用せずに,他所見との整合性を確認するべきである.