Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム3
基礎と臨床から超音波診断の問題点を見直す−精度・アーチファクト・限界−

(S131)

超音波物理から見た血流計測法の課題

Difficulties in Blood Flow Measurements due to Physical Properties of Ultrasound

長谷川 英之1, 2, 金井 浩1, 2

Hideyuki HASEGAWA1, 2, Hiroshi KANAI1, 2

1東北大学大学院医工学研究科, 2東北大学大学院工学研究科

1Graduate School of Biomedical Engineering, Tohoku University, 2Graduate School of Engineering, Tohoku University

キーワード :

1956年に里村らが発表した連続波ドプラ法[1]に端を発した超音波による血流計測は,その後目覚ましい発展を遂げ,超音波の非侵襲性という医療診断に望ましい特性も相まって,今や臨床の現場になくてはならないものとなっている.最初に開発された連続波ドプラ法は,理論的には速度の検出上限がないため高速血流の測定などに有用であるが,連続波超音波を用いているため空間分解能がなく,この問題を解決するために後にパルス状超音波を用いたパルスドプラ法,カラードプラ法が導入された[2,3].パルス法は空間分解能を有するが,検出可能な最大血流速度が送信繰り返し周波数に依存するため,連続波ドプラ法とパルス法が相補的な関係にあるのは良く知られている事実である.また,連続波・パルス法両方に共通する良く知られた問題点として,次のようなものがある.
1. 基本的にビーム方向の血流速度のみ検出可能である.
2. 検出される血流速度分布が超音波音場に影響される.
パルス法には,パルス状超音波自体が有する周波数帯域が,推定された流速分布を本来の分布より広げる原因となり得るなど,固有の問題もある.しかし,パルス法は空間分解能を有するため実用上大変有用であり,速度の定量計測はできないが低速血流の検出能を向上させたパワードプラ法など,パルス法をベースにした様々な手法が開発されている.
しかし,上記1,2など未解決の問題もあり,これらの課題を解決するため多くの研究が行われている.例えば,上記1は,超音波の音圧が基本的に伝搬方向(ビーム方向)のみに超音波周波数で変動していることに起因する.Jensenらは,この問題を解決するため,超音波音場がその伝搬方向と垂直な方向(ラテラル方向)にもある空間周波数で変動するように設計し,2次元の流速分布を推定する手法を提案している [4].
また,現在のドプラ法では,Bモード断層像を参照して血流とビームの角度を測定することにより,血流速度推定結果のビーム角度依存性を補正しているが,血流とビームのなす角が大きい場合には,そもそも補正前の血流速度が正確ではない.これは単に平均血流速度の推定精度が劣化するだけでなく,パルスドプラ法で得られる血流速度分布も本来の分布に対応しないということである.血流とビームの角度がほぼ90度の場合に,パルスドプラ法で正負の速度分布が見られるのは良く知られた現象である.これは,超音波ビームが理想的な線ではなく拡がりを有することによるものである [5].
このように,超音波ビームの角度という1つの測定条件が変化しただけでも,超音波音圧の変動方向や音場の拡がりなど複数の要素が関与して測定に影響を与える.そのため,上に述べたJensenらの手法や,定性的ではあるが血流の様子を2次元的に観察できるB-Flow法 [6] など,測定条件の影響を低減させるための手法が現在も精力的に研究されており,今後さらに有用な情報を提供してくれるものと期待される.
参考文献
[1]里村他, 日本音響学会講演論文集, 1956.
[2]Baker, et al, IEEE Trans Son Ultrason, 1970.
[3]Kasai, et al, IEEE Trans Son Ultrason, 1985.
[4]Jensen, et al, IEEE Trans UFFC, 1998.
[5]中山他, 電子通信学会論文誌, 1974.
[6]Chiao, et al, Proc IEEE Ultrason Symp, 2000.