Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム3
基礎と臨床から超音波診断の問題点を見直す−精度・アーチファクト・限界−

(S130)

断層像にみられるアーチファクトの成因と対策

The artifacts in the ultrasound images −Mechanism and its countermeasures.

神山 直久1, 飯島 尋子2

naohisa KAMIYAMA1, hiroko IIJIMA2

1東芝メディカルシステムズ㈱超音波臨床応用研究開発グループ, 2兵庫医科大学内科肝胆膵科

1Apprication and Research Group, Ultrasound Division, Toshiba Medical Systems Corp., 2Division of hepatobiliary and Pancreatic Diseases, Hyogo College of Medicine

キーワード :

【はじめに】
 超音波診断におけるアーチファクト(以下AF)とは,生体内音響特性によって発生する「虚像」を指す.これらは,診断装特性置側の不適切な信号処理やパラメータ設定によっても増大するが,音響特性上不可避の現象も多い. AFはその成因を理解した上で診断に使用できる一方,AFが原因の見落としによる医療事故を避けるためにその原理を知り,日常臨床に役立てることが重要である.本発表では,種々のAFの実例を紹介しながら,その原理と対策のノウハウなどを概説する.
【アーチファクトの種類と対策】
 AFの成因の種類を教科書から拾うと主に以下が挙げられる(原理は予稿集では割愛):(a) 減衰の違い(後方陰影,後方増強),(b)屈折,(c)反射(鏡面, 多重),(d)サイドローブ・グレーティングローブ,(e)スライス幅.このうち(c)〜(e)は,意図しない方向のエコー信号が虚像となって関心領域に重畳されるやっかいな現象である.まずエコーの大きな構造物(横隔膜など)が見えている場合,これがAF源となる可能性があると考える必要がある.またAF源は画像の外に存在する場合もあるので注意を要する(肺など).これらは,超音波パルスの入射角を変えると増減するので,プローブの位置を変化させるなどでAFを軽減できる場合がある.多重反射やサイドローブによるAFは,診断装置の観測深度(depth)やフォーカス点を変化させることでも軽減されることがある.
【教科書にないアーチファクト】
 3D…当然ながら,再構成された3D像においてもAFは存在する.しかもこの場合,拡大や回転,白黒反転などにより,AFの原理を知っていても,予想できない画像となる場合がある.例えば後方エコーの減弱によるシャドーは,振動子側の方向を見失えばAFとしての認識が困難になるだけでなく,全く別の構造物に見えることがある.
造影…造影モードにおける組織信号の残存は,診断結果を左右するAFであるため,造影剤投与前の組織信号の状態を(画像記録するなど)把握しておくことが望ましい.また近距離領域は送信パルス照射によるマイクロバブルの消失現象が起こりえるし,高音圧送信時には,横隔膜の鏡面反射により意図しない方向のバブルが崩壊している(そしてそれは断面を変えた際に初めて現れる)場合もある.
画像処理 …近年,診断容易性の向上を目的とした様々なリアルタイム画像処理機能が搭載されている.これらは通常,音響的AFの状況を考慮できないため,AFを含んだまま処理される.そのため,AFは今まで経験したことのない様相で出現している可能性がある.この対策としては,新しい機能の原理を把握すると共に,その機能をON/OFFしながらAFの状況を経験していくことが望ましい.
【おわりに】
AFの成因が理解できても,それが邪魔で有用な診断ができないとなると本質的問題である.AF軽減のためには,診断装置側と手技側で情報を共有しながら改善していく必要がある.またここでは割愛したが,特徴的なアーチファクトはそれ自体が診断のための有用な情報源となる場合も多い.その場合は画像パタンとして記憶するのではなく,音響的メカニズムを理解することで,診断情報の推測の幅が広がると思われる.