鈴木 亮, 丸山 一雄

Ryo SUZUKI, Kazuo MARUYAMA

帝京大学薬学部生物薬剤学教室

Department of Biopharmaceutics, School of Pharmaceutical Sciences, Teikyo University

キーワード :

　近年の超音波技術の進展に伴い，医療における超音波の利用が診断のみならず治療にも応用されつつある．実際に現在では，強力集束超音波治療 （HIFU） による超音波熱エネルギーを利用した前立腺がんや子宮筋腫の治療も行われている．これに加え超音波エネルギーの非温熱効果を利用した遺伝子デリバリーに関する研究が進められている．これまでに我々は，薬物キャリアーとして臨床応用されているリポソームに超音波造影ガス （パーフルオロプロパン） を封入した新たなタイプのリポソーム型微小気泡 （バブルリポソーム） を開発した．そして，このバブルリポソームと超音波照射を併用することで，細胞内への遺伝子デリバリー効率が格段に向上することを見出した．この遺伝子導入効率の向上には，バブルリポソームへの超音波照射により生じるバブルの振動や圧壊 （キャビテーション） が関与している．すなわち，バブルリポソームへの超音波照射による振動やキャビテーションによりジェット流が生じ，これにより細胞に一過性の小孔が開き，細胞外の遺伝子が細胞内に導入されていると考えられる （図1）．そのため本遺伝子導入システムでは，バブルリポソームが存在しかつ超音波照射した場合にのみ遺伝子を細胞内に導入可能である．したがって，バブルリポソームおよび超音波照射部位を時間的・空間的に制御することで，低侵襲的かつ組織特異的な遺伝子導入が可能になると期待される．そこで本発表では，バブルリポソームと超音波照射の併用による低侵襲的かつ組織特異的な遺伝子導入に関する基盤技術の構築に関して紹介する．
　さらに我々は，本遺伝子導入システムの遺伝子治療における有用性を評価するため，強力な抗腫瘍免疫を誘導可能なサイトカインとして注目されている IL-12 発現遺伝子を用いてがん遺伝子治療についても検討している．そこで本発表では，これらの検討を通じて得られたデータを中心に，リポソーム技術と超音波技術の融合による新たな遺伝子デリバリーシステムの遺伝子治療への応用の可能性について議論する．
【参考論文】
R. Suzuki, K. Maruyama et al. J Control Release 117, 130-136 （2007）
R. Suzuki, K. Maruyama et al. J Control Release 125, 137-144 （2008）