Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム1
異分野との融合による超音波イメージングの新展開

(S121)

フォトアコースティックイメージング

Photo-acoustic imaging

工藤 信樹

Nobuki KUDO

北海道大学大学院情報科学研究科生体計測工学研究室

Biological Instrumentation and Measurements, Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University

キーワード :

【はじめに】
 視診は診断の第一歩であり,様々の重要な情報を提供する.顔色や皮膚の状態などの体表はもとより,消化管や血管の内腔も内視鏡で観察できる.しかし,生体組織は光の強散乱体であることから,数mmの組織が介在するだけでも光学特性観察の空間分解能や色分解能は大きく低下する.一方,生体組織による超音波の散乱は光に比べて非常に小さく,超音波診断法では100 mm程度の深さまで高い分解能で断層像を取得できる.しかし,生体組織の音響インピーダンスの違いを画像化しているため,得られる画像と組織性状との関連は光学像ほど明確ではなく,主として形態的な診断に利用されている.生体組織の光学特性は,血液の酸素化状態や組織の代謝・性状など多くの有用な情報を含むことから,これを超音波断層像の高分解能で観察することを目指して,光と超音波を組み合わせたイメージングに関する研究が進められている.本稿では,研究の現状を概観するとともに,これまでの我々の検討のいくつかを紹介する.
【光音響イメージング】
 生体局所に数mJ/cm2程度のパルス光を照射すると,エネルギーを吸収した組織が瞬間的に熱膨張し,広帯域の超音波を発生する.この効果を光音響効果という.発生した超音波を用いて画像を作成するのが光音響イメージングである.発生する超音波の強度は,組織の光吸収係数によって変化するため,組織の光学特性を反映した超音波画像が取得できる.超音波信号を多点で検出し,逆問題を解いてイメージングを行う手法や,光源と超音波探触子を同軸に配置したセンサを走査することによりイメージングを行う手法などが報告されている.
【超音波変調光イメージング】
 超音波音場に伝搬方向に直交する方向から光を入射すると,光の進行方向が偏向を受ける.これは,超音波の圧力により伝搬媒体中に屈折率勾配が生じるためであり,圧力は超音波の周波数で変動するため,音場を通過した光の伝搬方向も超音波の周波数で変調を受ける.また,生体のような光強散乱体に超音波を照射した場合には散乱粒子の振動が生じ,光周波数にドプラシフトが生じる.
 生体組織を一様に照明した条件下で関心部位にのみ集束超音波を照射し,組織の透過光や散乱光から超音波変調成分のみを抽出すれば,その光は超音波の集束部位を通過した光と考えられるので,変調光の強度は超音波焦点にある組織の光学特性を反映する.超音波診断装置と同様に超音波の焦点位置をスキャンしながら変調光強度を計測すれば,組織の光学特性を反映した断層画像も取得できるが,変調光も組織での散乱や吸収により急速に減衰するため,これを高感度に検出する手法の開発が課題である[1].
【音場可視化】
 超音波診断装置のビームフォーミング技術の進歩や超音波治療装置の普及に伴い,超音波音場の計測技術にも進歩が求められている.この分野でも光技術の応用は古くから進められており,その代表例としてシュリーレン法がある.ハイドロホンを用いた音場分布計測に比べて正確さの点では劣るものの,分布を非接触で一度に可視化できる点で優れる.また,音圧が高くハイドロホンでの測定が難しい治療装置の音場評価には威力を発揮する.大型の光学系が必要となるが,これを用いずに簡便な手法でほぼ等価な画像を取得できる方法も提案されている[2].
[1]中村他,電子情報通信学会論文誌A 2001, J84-A(12): 1525.
[2]Kudo, N. et al. J. Phys.: Conference Series 2004, 1: 146.