Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

教育講演
教育講演1

(S118)

超音波医学の今昔から未来へ

History and Prospects of Medical Ultrasonics

千田 彰一

Shoichi SENDA

香川大学医学部付属病院総合診療部

Department of Integrated Medicine, Kagawa University Hospital

キーワード :

【はじめに】
 超音波医学会に属して三十数年になる.本会で学んだこと,実行できたこと,思いついたもののうまくいかなかったことなど様々であるが,ここで研究のありよう,教育・研修の進め方を考察してみたい.

【MとEとの協働による超音波医工学開発研究】
 MとEとの共同研究がうまく進むのは,双方それぞれのニーズとシーズがうまくかみ合った時である,とかつて恩師仁村泰治先生が言われた.連帯開発研究においては,MとEのそれぞれの研究者間で同床異夢的なところが少なからずあり,どの時代であっても協力し合う者同士の利害が隘路となって進歩を抑制してきたこともあったようだ.一方で,時代のニーズともいうべき,研究の高まり,タイミングの因子が良き進展を規定してきたように思う.
 黎明期の医学研究者は,まさに海のものとも山のものともつかぬ超音波の生物学的応用に夢と可能性をかけ,一方エンジニア達は,人体応用への畏怖を持ちつつも,超音波工学の海洋音響以外への発展の望みを併せもち,協働して新しいものへ踏み込もうとする意欲に満ちていた.(筆者責任編集:日本超音波医学会創立40周年記念誌;超音波医学の先駆者たち─日本の黎明期を支えた人々─,2002年6月)
 次ぎの時代は,医学者の臨床応用への飽くなき追求と新指標創出の意欲に対し,メーカーを中心とした工学開発者達のブレイクスルー合戦であった.音響工学だけでなく,レーザー工学や電子工学,流体力学,物性理論など周辺の知識が総動員されて,一気に花開き,夢見た診断機器が日に日に改良されていくのを実感できた.その渦中にあっては,時間ごとに進歩する技術とさらなる夢実現へのアイデアとが相互に交錯し合い,論文を書くより何より開発の楽しさにはまってしまっていた.MといわずEといわず,何をやってもNEWであり,我が国が世界に発信し続けた超音波医学発展の絶頂期であった.
 非侵襲で簡便であるという特徴は爆発的な普及を誘発した一方で,やがて一部の医師は開発研究の方向を別の分野へと向かわせたし,少なからぬエンジニアも機器開発について別の工学手法に関心が移ろっていった.ことに,治療に関連する段になって,ことにE系の人達の臨床リスク回避の志向が顕著となり,新たな技術開発への意欲が薄れていったように思う.それでも,コントラストエコー法がそうであったように,機器開発と基礎実験,臨床応用が三位一体となって結実していったものも少なくない.ただ,これもコントラスト剤のように薬物の開発という因子にかなり規定されたところがある.
 では今後の発展はどうであろうか.時代のニーズの一つが治療にあることは,相当以前から喧伝されてきており,HIFUでのように実用化さてたものもある.さらに技術的な大ブレークがあって,また診断機器も新たな展開を見せると期待したい.

【教育・研修】
 臨床の場において超音波医学の教育・研修を進めるため,本学会には様々な教育プログラムがある.中でも1986年に「超音波医学研修ガイドライン」が,2003年には「超音波専門医研修カリキュラム」が発刊され,各領域での診断基準とともに実地臨床で活用されている.また,学会認定資格として“超音波専門医”(1990年から)および“超音波検査士”(1985年から)があり,それぞれ臨床超音波医学の発展に貢献している.専門医制度は今後の我が国における良き医療人育成と医療提供体制の整備に骨格となるべきものと考えられ,本学会では常に改革を続けている.また,本来国家的規模で実施されるべき専門技師の養成を学会が担わんとの覚悟で始められた(筆者筆の超音波検査士認定試験問題集第1版序を参照)超音波検査士は,近年大規模な認定試験が実施されており,社会の認知度もあがって評価は上昇の一途である.これらを両輪として,超音波診療と研究を推進していくことが,斯界をさらに発展させることにつながると考える.