専門医としてのキャリアは医師としての成長を大きく左右する重要な選択のひとつ。 その決断をした先輩医師たちは、どんな想いでこの道を選び、どのような変化を経験してきたのでしょうか?
第一線で活躍する専門医たちのリアルな声をインタビューでお届けします。 資格取得のきっかけからキャリアの展望まで、それぞれの歩みを紐解きます。
本日はインタビューのお時間ありがとうございます。まず、超音波専門医を取得されるまでのキャリアについてお伺いします。専門医を取得するまでにどのようなキャリアを歩まれたか、教えていただけますか?
はい。私は2010年に大学を卒業し、その後3年間は大学病院で初期研修を行いながら、消化器内科に入局しました。2013年からは、武蔵野赤十字病院の消化器内科で5年間勤務し、さらにその後、2018年から山梨に戻って大学関連病院である市立甲府病院で2年間勤務しました。その勤務中の2018年に、超音波専門医の資格を取得しました。
超音波医学会(JSUM)には、消化器内科を選ばれた時点で入会されていたのですか?
いえ、その時点では、他の消化器系の学会、たとえば内視鏡学会などにしか入っていませんでした。武蔵野赤十字病院で勤務し始めた際に、超音波医学会に入る機会があり、早い段階で入会させていただきました。
超音波専門医を取ろうと思ったきっかけについて教えてください。
やはり、実際の現場で一緒に診療にあたった先輩方との出会いが一番大きかったと思います。学生時代にも、空き時間に友人とエコーを当てて練習していたことはありましたが、体系的に学ぶ機会はありませんでした。
ただ、臨床現場で患者さんに対して先輩と一緒にエコーを当てるようになり、「もっとしっかり学びたい」「専門医を取ってみたい」と思うようになりました。
特に肝臓領域では、ラジオ波焼灼療法や造影超音波といった検査が非常に重要です。そういった機会に恵まれたことも、後押しになりました。
もちろん、情熱があれば資格がなくてもよい医療を提供することはできますが、資格を持っていることで自信につながり、また客観的な評価も得られます。患者さんがホームページを見て、「この先生はしっかり勉強されている」と感じてくださることもあります。
ということは、武蔵野赤十字病院での勤務時に、取得を意識されたのですね。
そうです。消化器内科の中で肝臓を専門に選んだあたりから、自然と意識するようになりました。専門医を取得している先生が多くいたので、目標としてイメージしやすかったですね。
超音波専門医を取得したことで、日常診療にどのような影響がありましたか?
一番は、取得までの過程で得た知識と経験が、今も診療に生きていることです。たとえば、偽腫瘍や多重反射など、間違いやすい所見について、試験勉強を通してしっかり学べました。
また、内視鏡カンファレンスのように他者からのフィードバックを受ける機会が少ない超音波検査において、専門医試験に向けて自分の診断を振り返ることは、とても良い機会になりました。
超音波検査が好きでも、超音波専門医までは取得しないという方もいらっしゃいます。その点についてどう思われますか?
確かに、日常でよく使っているから専門医までは、と思う方は多いと思います。でも、私のように出産や育児で現場を離れた経験があると、専門医資格があることが「心の支え」になる場面は多いです。
また、当時私の大学には超音波専門医がいなかったため、超音波専門医研修施設の指定を取るところから取り組みました。その過程で技師さんたちと連携し、教育体制を整えることができました。結果的に4人の先生が資格を取得されましたし、技師の先生方とも一緒に取り組めたことは非常に嬉しかったです。
診療以外で、研究や教育の場面で役に立ったと感じたことはありますか?
はい、私は超音波に関する論文を3本ほど執筆していますが、いずれも専門医取得に向けた勉強を通じて得た知識がベースになっています。
たとえばTIC解析など、技術的なことも含めて、勉強しなければ知らなかった内容ばかりです。
また、大学での教育体制づくりや、技師さんたちとの所見の共有なども、専門医取得を通じて得られた経験です。
育休中もエコー業務に関わっておられたと伺いましたが、どのような形でしたか?
2023年6月から2024年9月までは、産休・育休を取得していました。その間は外勤で半日だけ、外来と検査業務を兼ねる形で勤務していました。内視鏡が中心でしたが、造影超音波など比較的体に負担が少ない検査であれば、出産直前まで関わることができました。
座位・立位の入れ替えが多い内視鏡と比べ、エコーは体勢的にも続けやすく、育児中でも比較的無理なく継続できた実感があります。
ご自身のキャリアを考えるうえで、「超音波専門医資格があって良かった」と思う場面は他にありましたか?
はい。出産・育児後の復帰の際には「自信」や「心の支え」といった意味でも、大きな支えになりました。
また、将来的に職場の異動やキャリアチェンジがある場合でも、専門資格は一つの客観的な評価指標になります。もちろん、医師の能力は資格だけで測れるものではありませんが、「同じスキルを持っている人同士」で比較されたときに、資格の有無が評価の一助になることはあると思います。
今後、超音波専門医として挑戦したいことや、取り組んでみたい目標があれば教えてください。
若手の先生方に、超音波の魅力を伝えていきたいです。今は働き方改革の影響で、検査の現場に立ち会える時間が限られていますが、その中でも効率よく学んでもらえる教育法を模索していきたいと思っています。
また、Early Career部会の活動など、施設の枠を超えた連携にも関わっており、「エコリンピック」のような楽しく学べる企画を通じて、広く興味を持ってもらえたら嬉しいです。
先生ご自身は、超音波専門医取得をキャリアの中盤以降にされたと思いますが、もっと早い段階で、今のような指導や支援を受けられていたら…と思うことはありますか?
それはありますね。3年目の頃など、周囲も忙しくてなかなかじっくりと教わる機会が少なかったですし、私自身も見よう見まねでなんとかやっていた感じでした。
そのときに、もしもっと系統的に学べる仕組みがあったら、早い段階で「超音波専門医になってみよう」と思えたかもしれません。今は、そうした“あの頃の自分”のような若い先生方に、少しでも良い環境を提供できたらと思っています。
ライフイベントを機に一時キャリアから離れていた若手医師が、「内視鏡のような緊急性のある領域に戻るのは難しい」と感じている場合、エコーを軸にしたキャリア形成は現実的だと思われますか?
はい、十分に現実的だと思います。内視鏡関連の業務は、緊急対応が必要だったり、長時間の処置になることも多いですよね。そういった点で、家庭との両立が難しいと感じる方もいらっしゃると思います。
一方、超音波検査は比較的時間や場所の融通が利きやすく、緊急呼び出しが少ない分、ワークライフバランスを取りやすい検査です。また、一定の技術があれば検査に直接携わる時間も長く保てるため、スキルを活かしながら長く現場に関わることができます。
そういった意味でも、「手技で勝負する」というよりも、「安定して現場に関わり続ける」キャリアを目指したい方にとって、エコーは有望な選択肢になると思います。
また逆に、超音波関連手技で勝負する医師にとっても、基礎的なエコーの知識をしっかり身につけておくことで、手技の習得がスムーズになり、比較的短い期間で実践に活かせるようになると思います。
最後に、これから超音波専門医を目指す先生方へメッセージをお願いします。
制度は少しずつ緩和されていますが、提出症例やレポートの難易度はやはり高めだと思います。指定されている疾患について、ぜひ日頃から、自分の専門に限らず、専門外の症例も意識して計画的に集めていくことが大切です。
また、私のようにライフイベントを経験しながらでも専門医を取得することは可能です。むしろ、そのような時期だからこそ、専門医という客観的な評価軸が支えになる場面も多いと思います。
一例として参考にしていただければ嬉しいですし、もし何かあれば、気軽にご相談いただければと思います。

- 【インタビュアー】田中 聡司先生(国立病院機構大阪医療センター 消化器内科)
- 【インタビュイー】高田 ひとみ先生(武蔵野赤十字病院 消化器内科)