B-modeおよび造影超音波にて確認困難であった血管内大細胞型B細胞リンパ腫(IVLBCL)の一例
はじめに
このたび、日本超音波医学会第98回学術集会において新人賞という身に余る賞をいただき、心より光栄に存じます。ご指導くださった上級医の先生方、日々ともに診療にあたる他職種の方々、そして本症例に関わるすべての方々に、この場をお借りして深く感謝申し上げます。
今回私が発表した症例は、「B-modeおよび造影超音波にて確認困難であった血管内大細胞型B細胞リンパ腫(IVLBCL)の一例」です。
患者は79歳女性、主訴は下痢、食欲不振でした。近医を受診しCRP 7.5mg/dLと上昇を認めたため、精査加療目的に当院紹介となりました。血液検査でsIL-2R 906IU/mLと上昇があり、単純CTで肝腫大と肝に多発低吸収域を認めました。ダイナミックCTでは単純CTで認めた低吸収域の内部を貫通する血管を認め、悪性リンパ腫が疑われたため同日入院となりました。骨髄穿刺では診断確定に至らず、B-mode超音波ではCTで見られた低吸収域は境界不明瞭なlow echoic areaとして描出されました。造影超音波では動脈優位相、門脈優位相でも周囲と区別ができず、後血管相(Kupffer相)でもdefectは見られませんでした。CTにおける脈管の位置を参考に超音波下肝生検を施行しました。病理組織所見では肝類洞内にリンパ球様細胞が見られ、免疫組織染色ではCD20陽性細胞は大型で、CD3/5/10陰性、ki-67 labeling indexはhighであり、Diffuse large B-Cell Lymphoma (DLBCL)の診断でした。リンパ腫細胞の存在が類洞主体であったことより、我々は血管内大細胞型B細胞リンパ腫(intravascular large B-cell lymphoma:IVLBCL)と診断しました。追加の免疫染色ではCD68陽性細胞(Kupffer細胞)も類洞内に散見され、そのため造影超音波検査の後血管相でdefectを呈さなかったと考えられました。治療としてR-PolaCHPを6コース行いCRとなり、現在も無再発生存中です。
IVLBCLは極めて稀な節外性B細胞リンパ腫であり、その非特異的な臨床症状と画像所見から、診断の遅れがしばしば致命的な結果を招く疾患です。本症例では、肝臓に複数の低吸収域を認めつつも、造影超音波の各相において病変と周囲肝実質との造影性の違いが明確でなく、診断に苦慮しました。
初学者として、B-modeや造影超音波の動態から疾患を読み解こうとする中で、IVLBCLが肝類洞内にとどまりKupffer細胞が比較的保たれるため、造影後期相(Kupffer相)でも明瞭なdefectを示さない可能性があるという点に気づけたことは、大きな学びでした。この点を文献と照らし合わせ、病理学的所見と統合的に評価することで、超音波診断の可能性を実感しました。
また、今回の受賞を通じて、自身の知識や経験だけでなく、臨床現場で多くの方の知恵と協力を得てはじめて一つの診断にたどりつけるという「チーム医療」の重要性を改めて痛感しました。患者さんの訴え、検査所見、画像、そして病理と多方面から積み上げていく作業は、超音波医学が単なる「画像診断」にとどまらず、全人的な臨床推論の一翼を担う学問であることを示しています。
今後も、今回の貴重な経験を糧に、さらに研鑽を積み、診断に苦しむ症例に対しても粘り強く取り組んでいきたいと思います。超音波というツールが持つ可能性を広げる一助となれるよう、努力を続けてまいります。

渋谷 千晶(岡山市立市民病院)