専門医としてのキャリアは医師としての成長を大きく左右する重要な選択のひとつ。 その決断をした先輩医師たちは、どんな想いでこの道を選び、どのような変化を経験してきたのでしょうか?
第一線で活躍する専門医たちのリアルな声をインタビューでお届けします。 資格取得のきっかけからキャリアの展望まで、それぞれの歩みを紐解きます。


最初に、超音波専門医を取得されるまでのキャリアについて教えていただけますか?

少し私の経歴は特殊かもしれませんが、もともとは医学部ではなく工学部に在籍していました。そこで、基礎研究、特に学会での発表などにも関わる機会がありました。そうした経験がベースにあって、途中で医学部に編入しました。
編入の時点ですでに超音波に興味があり、「臨床で超音波に関わっていきたい」と思っていたので、学生の頃からそのような志向があったと思います。
その後、初期研修を経て、超音波に携わる中で循環器領域に興味を持つようになりました。というのも、私の母校が島根大学であり、循環器内科の教授が超音波の専門家だったこともあり、自然な流れで島根大学に戻って関わるようになりました。そうした背景もあって、超音波の専門医は「必ず取ろう」と思っていました。
実際、研修医の頃から日本超音波医学会に入会していて、「最短で取得しよう」と思って取り組んでいました。そういう流れで、超音波専門医を取得するに至ったという経緯です。

もともと工学部に在籍されていたということですが、物理や波の性質など、超音波に関係する分野に興味があったのですか?

当時の専攻は情報学で、主にプログラミングやコンピューターの活用といった内容でした。その後、徐々に生体に対する関心が高まり、もともと医学にも興味があったので、自然と今の道につながった感じです。
配属された研究室では、ちょうどエラストグラフィ(弾性イメージング)の開発に取り組んでいて、そこから本格的に超音波への興味が強まっていったという感じです。

エラストグラフィに関わっていたとのことですが、消化器など他領域への興味もあったのでしょうか?

研究室ではエラストグラフィを使って臓器ごとにテーマを分担していて、私はたまたま大動脈を担当していました。その関係もあって循環器領域に関心を持つようになり、今の方向性につながった部分があります。

超音波専門医を取得しようと思った「きっかけ」になるような出来事があれば、教えていただけますか?

きっかけというと先程の話と重なる部分もありますが、もともと自然な流れで「超音波に関わる臨床をやっていきたい」と考えていましたし、研究活動もしていましたので、超音波医学会にも早い段階から入会していました。
学会について色々調べていくうちに、専門医制度のことを知って、「これは取っておくべきだ」と思いました。実際、私の上司も皆さん取得されていたので、自分も自然と「取らないとな」と考えるようになりました。強いきっかけがあったというより、臨床や研究を続ける中で、超音波専門医取得は当然の流れとして考えていたという感じです。
また、臨床検査技師を始めとする他職種の方が認定超音波検査士を取りたいと考えたときには、申請書類に超音波専門医によるサインが必要になりますので「やはりこの資格は取っておいたほうがいいな」と強く感じました。

実際に超音波専門医を取得する段階、つまり準備に入った頃は、いろいろ大変なこともあったかと思います。特に「苦労した点」や「工夫したこと」があれば、教えていただけますか?

専門医を取ろうと決めてからは、まず学会の認定要件などを確認しました。やはり症例報告が必要になりますので、その症例を集めることは、振り返ると少し大変だったかもしれません。
また、私はやや特殊な経歴で基礎研究にも関わっていたのですが、専門医試験では基礎分野からも出題されるので、そこに対応するための勉強、特に計算問題の対策、が結構大変でした。

先生が超音波専門医を取得された当時は、学会発表や論文で、5件提出しなければならなかった記憶があります。件数も多くて大変だったのではないでしょうか?

私のときはちょうど要件が少し緩和されたタイミングだったと思います。
記憶が少し曖昧なのですが、たしか学会歴の年数などの条件が短縮されたような時期で、そういった移行措置があったと記憶しています。その点では、少しハードルが下がっていたかもしれません。

取得のために具体的に工夫されたことがあれば教えてください。

症例集めについては、たしか当時は大学や中規模病院に所属していた頃で、積極的に検査に関わるようにしていました。特に印象に残る症例や気になる所見があれば、ストックしておくようにしていました。また、試験直前には、基礎分野の勉強を集中的にやり直しました。

普段から、足りていない分野の症例などを意識して記録し、積極的に関わるようにしていたということですね。

そうですね。スムーズにレポートが提出できるように、日頃から準備しておくようにしていました。

実際に日本超音波医学会の専門医を取得されたあと、日常診療の中で「この資格があってよかったな」と感じた場面があれば、教えてください。

一番感じたのは、資格を取るまでの過程が自分にとって非常に有意義だったということです。症例を一つ一つ振り返りながら整理する機会になりましたし、繰り返し出てくる「基礎」の分野についても、しっかりと勉強し直すことができました。そういった知識は、自分の臨床の糧になっただけでなく、後輩に指導するときにも役立ちました。「自分が勉強したとき、こういうふうに理解した」といった視点で説明できるので、指導がスムーズになったと感じます。

知識の再整理ができて、それが日常診療にも教育にも活かされたということですね。

そうですね。実感としても「取得してよかったな」と思います。

坂本 考弘先生(島根大学医学部附属病院 循環器内科 助教 / 出雲市立総合医療センター 内科 医長)

先生はもともと研究にも関わっておられたと伺っていますが、診療以外の場面、たとえば研究において超音波専門医の資格が役立ったことはありますか?

はい、そうですね。私は今、エラストグラフィ関連の研究をしていて、臓器の血流などを見るようなテーマを扱っています。専門医取得の過程で学んだ基礎的な工学知識が、改めて研究に活かされていると感じています。今後は心不全から生じる臓器うっ血に関する研究を進めていきたいと考えていますが、その際には専門領域である心臓以外の臓器の超音波検査が必要となるため、領域横断的な学会である日本超音波医学会はまさにうってつけの学会と言えると思います。
それと、少し話は変わるのですが、ある病院では「専門医を持っていると給与が上がる」という制度が実際にありました。私もそれを聞いて驚いたのですが、専門医があるだけで評価される仕組みがあるのは現実的なメリットだと感じました。インセンティブがある施設は決して多くはないと思いますが、そういう点でも取ってよかったと思っています。

実際に超音波専門医の資格が給与面で評価されたというのは、非常に分かりやすいメリットですね。ほかにも、ご自身のキャリアの中で超音波専門医を持っていて良かったと思う場面があれば、教えていただけますか?

はい。やっぱり「専門医を持っている」ということ自体が、自分にとってひとつの安心感につながっています。これまで学んできたことが、形として証明されているという意味でも自信になります。また、今すぐに転職などを考えているわけではありませんが、仮に将来そういったタイミングが来たとしても、「自分は専門医資格を持っている」と言えることで、他の先生方にも一定の能力を示すことができます。それに、指導する立場としても「専門医を持っている先生」ということで、信頼を得やすい部分もあると思います。

たしかに、ご自身の能力を外からも示せるという点で、資格の意味は大きいですね。

はい、そう思います。

では今後、超音波専門医として、何か挑戦してみたいことや目標があれば教えてください。

専門医というよりも、もう少し広く「超音波そのもの」に関わる話になりますが、今の自分の大きな関心は“地域での普及”です。実は2025年3月まで国立循環器病研究センターに所属していて、4月から島根大学に戻ってきたんですが、やはりこの地域で超音波検査をもっと広めていく必要性を強く感じています。ちょうど今所属している病院では、「実は超音波やってみたい」と言ってくれる臨床検査技師さんが3名いて、その方たちと一緒に新たに検査枠を立ち上げているところです。これまでその病院には、そもそも超音波検査の枠すらありませんでしたし、検査を担当する人もいませんでした。でも今は一緒に動きながら少しずつ体制を整えて、病院としても「枠を増やしていこう」という流れになってきています。自分としては“専門医として”というより、“超音波という手技をどう地域に根付かせるか”という視点で、普及活動や診療の質向上につなげていきたいと思っています。

なるほど。専門医という立場で地域に出て、超音波をこれから普及させていくというのは、まさに社会的にも意義ある取り組みですね。島根県全体で見ると、超音波専門医の数というのはどれくらいいらっしゃるんでしょうか?

島根県内では東部と西部でかなり状況が違います。東部の出雲や松江には島根大学附属病院がありますし、そこには専門医の先生もいらっしゃるのですが、西部地域にはほとんどいないのが現状です。大学でも、専門医の数は以前より減ってきている印象があります。今の新制度では、おそらく専門医の数も二十数名くらいになっていると思います。ちなみに私が今通っている2つの病院のうちの1つには、循環器領域での超音波専門医はゼロです。ですので、臨床現場でのニーズが高いにもかかわらず、まだまだ供給が追いついていないという印象を持っています。今後は、特に西部地域での普及活動をどう進めていくかが課題ですね。

地域での偏在や超音波専門医の不足は、県単位で見ても大きな問題ですね。そうした課題を受けて、今後の取り組みとしては、「超音波専門医が少ない地域での普及活動」を目標として進めていく、ということでしょうか?

はい、まさにその通りです。まずは今自分が関わっている病院で基盤を整えつつ、その流れを次の地域へどう波及させていくか。そこが今後の重要なポイントだと考えています。

それでは最後に、これから超音波専門医の取得を目指す若い先生方に向けて、先生ご自身の経験や、取得して得られたメリットなどを踏まえたアドバイスやメッセージをお願いします。

はい、ありがとうございます。私は循環器領域の超音波、いわゆる「心エコー」が中心になりますので、そちらの話がどうしてもメインになってしまうのですが、私の指導医の先生がよくおっしゃっていたのが「心エコーは臨床そのものだ」という言葉なんです。まさにその通りで、循環器内科にとって心エコーは、もはや“なくてはならない手技”です。診療の現場で素早く、かつ的確に判断を下すために、心エコーは非常に強力なツールになります。なので、これから循環器を志す若手の先生方には、まずこの領域をしっかりと学んでいただきたいと思っています。そして、その学びをより深めて整理する意味でも、「専門医資格の取得」はとても良い目標になると思います。自分の経験としても、専門医の勉強を通じて、知識が体系的に整理され、臨床に対する理解がより深まりました。そういう意味でも、専門医を目指すことは単なる“肩書き”ではなく、自分の臨床力を上げる一つのステップとして非常に有意義なものだと思います。


  • 【インタビュアー】黒沢 幸嗣先生(前橋赤十字病院 臨床検査科部長・超音波診療センター長)
  • 【インタビュイー】坂本 考弘先生(島根大学医学部附属病院 循環器内科 助教 / 出雲市立総合医療センター 内科 医長)