英文誌(2004-)
一般ポスター 循環器
心筋症その他
(S815)
診断および治療に難渋した心原性多発塞栓症の一剖検例
An autopsy case of multiple cardiogenic embolism which had difficulty for diagnosis and treatment
大平 美穂, 森 三佳, 中川 珠実, 柏原 悠也, 寺田 和始, 舟田 晃, 林 研至, 川尻 剛照, 大井 章史, 山岸 正和
Miho OHIRA, Mika MORI, Tamami NAKAGAWA, Yuya KASHIHARA, Kazushi TERADA, Akira FUNADA, Kenshi HAYASHI, Masaaki KAWASHIRI, Akishi OOI, Masakazu YAMAGISHI
1金沢大学大学院医学系研究科循環器病態内科学, 2金沢大学附属病院病理診断科・病理部, 3高岡市民病院循環器内科
1Cardiology, Kanazawa University School of Medicine, 2Pathology, Kanazawa University Hospital, 3Cardiology, Takaoka City Hospital
キーワード :
【症例】
62歳,女性.
【主訴】
発熱,構音障害.
【現病歴】
20XX年9月Y日より構音障害と38度の発熱が出現し,2日後に当院外来を受診した.頭部MRIでは多発脳梗塞像が認められ,胸腹部CT検査では両腎に楔状の造影不領域と右肺の小結節影が認められた.また,経胸壁心臓超音波検査では,2年前の同検査では認められなかった新規の軽度大動脈弁閉鎖不全症が認められ,精査目的に同日入院となった.入院1ヶ月前に歯科治療歴があることより,全身性塞栓症の原因として感染性心内膜炎が疑われ,血液培養を繰り返し施行したが全て陰性であった.経食道心臓超音波検査では,大動脈弁左冠尖に等輝度の短い紐状構造物を認めた他,卵円孔開存および右左シャントを認めた.下肢静脈超音波検査で深部静脈血栓が認められたことより,多発塞栓症の原因として奇異性脳塞栓症も疑われた.同日より抗凝固療法が開始となったが,その後も発熱は持続し,血尿,腹痛,高血圧,腎機能悪化も出現した.第24病日の造影CT検査で腎膿瘍が指摘され,更に経胸壁心臓超音波検査で大動脈弁閉鎖不全症が悪化していたため,培養陰性の細菌性心内膜炎も考慮して抗菌剤投与を開始した.第28病日の経食道心臓超音波検査では大動脈弁閉鎖不全症は中等度へ進行し,大動脈弁無冠尖および左冠尖に等輝度塊状構造物が出現していた.心臓血管外科と検討の上,準緊急で手術を行う方針となったが,同日に梗塞後脳出血を来し昏睡状態となり,第30病日に永眠された.
病理解剖では大動脈弁に疣贅様の構造物が確認されたが,菌体や炎症細胞浸潤等の活動性感染を示唆する所見は認められず,無菌性心内膜炎と考えられた.右肺の小結節は画像診断では炎症性変化または早期肺癌を疑われていたが,病理組織で肺腺癌と診断され,対側肺への転移も指摘された.以上より,肺癌を背景とした非細菌性血栓性心内膜炎による全身性塞栓症と診断した.
【考察】
悪性腫瘍は非細菌性血栓性心内膜炎の最大の危険因子であると報告されている.原因不明の全身性塞栓症を呈する症例では悪性腫瘍を背景に有する場合があり,本症例のように軽度弁膜症であっても短期間に経時的な進行を認める場合には,考慮すべき病態として認識しておく必要がある.