Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般ポスター 循環器
その他 1

(S803)

右総腸骨動脈瘤の静脈穿破により動静脈廔を形成し,両心不全を発症した1例

A Case of Heart Failure with Right Common Iliac Arteriovenous Fistula

椎原 百合香, 伊東 佳子, 宮本 宣秀, 阿部 貴文, 高山 哲志, 森田 雅人, 迫 秀則

Yurika SHIIHARA, Yoshiko ITOU, Nobuhide MIYAMOTO, Takahumi ABE, Tetsushi TAKAYAMA, Masato MORITA, Hidenori SAKO

1大分岡病院検査課, 2大分岡病院循環器内科, 3大分岡病院心臓血管外科

1Department of Clinical laboratory, Oita Oka Hospital, 2Department of Cardiovascular Medicine, Oita Oka Hospital, 3Department of Cardiovascular Surgery, Oita Oka Hospital

キーワード :

【はじめに】
腸骨動脈瘤の稀な合併症である右総腸骨動静脈廔により両心不全を呈した症例を経験したので若干の文献的考察を含めて報告する.【症例】
70代,男性.【既往歴】
右総腸骨動脈瘤,腹壁瘢痕ヘルニア術後感染,肺気腫【現病歴】
3か月前より認められていた右総腸骨動脈瘤41mmに対してステントグラフト治療および内腸骨動脈塞栓術を予定していたが,息切れ,両側下腿浮腫を認め来院された.来院時のSpO2は94%であり,外来にて利尿剤で経過観察をしていたが症状は変わらず,浮腫は増悪しSpO2も87%と低下していた.そのため,肺塞栓症や深部静脈血栓症疑い精査のため施行した造影CTでは,それらは認めず右総腸骨動脈瘤破裂によると思われる動静脈廔形成を新たに認めた.瘻孔径は1cm程度で,下大静脈拡張,多量の胸水,肺水腫を認めた.血液検査では,Hb 17.2g/dl,BNP 747.9pg/ml, 心電図は完全右脚ブロックを呈していた.経胸壁心エコーでは壁運動異常を認めず,LAD 37mm,LVDd 54mm,LVEF 68%で,問題となるような弁膜症は認めなかった.ドプラ法でのSV 105ml,CO 9.4L/min,CI 5.8L/min/m2.右房・右室の拡大,McConnellサイン(+),左室への高度圧排所見,下大静脈最大径25mm・最小径19mm・呼吸性変動低下し,推定肺動脈圧は51/36mmHgと上昇していた.血管エコーでも下肢に深部静脈血栓は認めず,右総腸骨動脈と右総腸骨静脈の瘻孔と思われる部分には乱流を認め,流速は5m/sと推測された.今回の浮腫や心不全兆候は急激に発症した動静脈廔による容量負荷が原因と考えられ,入院となり外科的に人工血管置換,瘻孔閉鎖術が施行された.術後は右心不全は改善し浮腫も改善,胸水は消失した.経胸壁心エコーでは,LAD 31mm,LVDd 48mm,LVEF 55%,右房・右室は縮小,McConnellサイン消失,左室への圧排所見減弱,下大静脈最大径6mm・最小径2mm・呼吸性変動も認め,推定収縮期肺動脈圧36mmHgと低下し,良好な経過をたどり退院された.【考察】
通常,動静脈廔を発症すると高心拍出量心不全の病態を呈することが多く,甲状腺機能亢進症,脚気心,貧血など鑑別が必要となる.本症例ではそれらの理学的所見やエピソードはなく,貧血も認められず,高心拍出量心不全の原因は腸骨動脈領域での動静脈廔によるシャントと考えられた.右心不全が強く表れた背景としては,瘻孔からの急激な静脈還流量増加のみでなく,肺気腫の既往から肺血管床の減少があり肺血管抵抗が高かったことも一つの原因と推測された.【結語】
動静脈廔などのシャント疾患には高心拍出を疑い,さらに肺血管抵抗高値となる背景疾患を持つ症例では,右心不全が優位に出現することも念頭におきたい.今回,右総腸骨動脈瘤破裂により動静脈廔を形成し,右心不全を主体とした両心不全を発症した症例を経験したので報告する.