Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般ポスター 循環器
弁膜症

(S800)

未治療の先端巨大症に合併した僧帽弁逸脱症に対して外科的治療を行った一例

Surgical treatment for mitral valve prolapse in a patient with untreated acromegaly

本多 亮博, 田原 宣広, 戸次 宗久, 中村 知久, 平方 佐季, 熊埜御堂 淳, 髙瀨 文敬, 高木 数実, 田中 啓之, 福本 義弘

Akihiro HONDA, Nobuhiro TAHARA, Munehisa BEKKI, Tomohisa NAKAMURA, Saki HIRAKATA, Jun KUMANOMIDO, Fumitake TAKASE, Kazuyoshi TAKAGI, Hiroyuki TANAKA, Yoshihiro FUKUMOTO

1久留米大学医学部内科学講座心臓・血管内科部門, 2久留米大学心臓血管外科

1Department of Medicine, Division of Cardiovascular Medicine, Kurume University School, 2Cardiovascular Surgery, Kurume University School

キーワード :

【症例】
58歳,男性
【主訴】
労作時呼吸困難
【現病歴】
20××年8月より夜間呼吸困難を自覚,9月に労作時の息切れが出現し,A病院を受診した.胸部単純X線写真にて心陰影の拡大があり,急性心不全の診断でフロセミド20mg/日,カルベジロール10mg/日,ニフェジピン40mg/日による内服治療が開始となった.呼吸困難の改善後,精査加療目的にB病院へ紹介となり,経胸壁心エコー検査で全周性に左室壁の肥厚,左室機能低下(Simpson法LVEF 30%),僧帽弁後尖の逸脱による重症僧帽弁閉鎖不全症を認めた.重症僧帽弁閉鎖不全症に対する外科的介入を含めた加療目的に当科へ紹介され,入院になった.
【入院時現症】
身長 169.8cm,体重 78.3kg,BMI 27.2kg/m2,心拍数 88bpm(整),血圧162/92mmHg,頸静脈怒張と下腿浮腫が認められた.聴診上,肺野にcoarse crackleは認めず,心尖部を最強点とする汎収縮期雑音(Levine Ⅲ/Ⅵ)およびⅢ音を聴取した.巨舌と下顎の突出,手指と鼻の肥大,体幹と四肢の巨大を認めた.
【検査所見】
胸部単純X線写真では,CTR 54.5%と心陰影の拡大があり,肺うっ血を認めた.
安静時12誘導心電図では,洞調律,心拍数 94拍/分,正軸で,左房負荷と左室肥大の所見を認めた.
経胸壁心エコー図検査では,左房と左室の拡大および左室肥大を認めた.左室壁の運動は全周性に低下していた.僧帽弁の後尖(P2-P3)は左房内に逸脱し,左房前壁に沿って僧帽弁閉鎖不全症が認められ,肺静脈に流入していた.僧帽弁閉鎖不全症は,逆流量 112.6ml,逆流率 71.8%と重症であった.経食道心エコー図検査においても後尖(P2-P3)の腱索断裂に伴う逸脱による僧帽弁閉鎖不全症が確認された.
【入院後経過】
入院後,エラナプリルを開始し,10mg/日まで増量して,スピロノラクトン25mg/日を追加した.NT-pro-BNPは,入院時の1965pg/mLから心不全改善後に357pg/mLまで低下した.巨舌と下顎の突出,手指と鼻の肥大,体幹と四肢の巨大を認め,先端肥大症が疑われた.75gOGTT負荷試験で成長ホルモンの抑制はなく,血清ソマトメジンCは高値であった.頭部MRIにて下垂体腺腫を認め,先端巨大症と診断した.副症状として発汗過多,睡眠時無呼吸症候群,高血圧,手足の単純X線異常も認められた.睡眠時無呼吸症候群は,無呼吸低呼吸指数が46.5回/時間と重症であり,持続陽圧呼吸療法を開始した.心臓外科,脳神経外科と協議のうえ,僧帽弁逸脱症に対する治療介入を優先して行い,下垂体腺腫に対しては経蝶形骨洞下垂体腺腫摘出術を行う方針となった.20××年11月僧帽弁逸脱症に対して僧帽弁形成術が施行された.手術所見では,僧帽弁P3に腱索断裂を伴う幅1.5cmの逸脱と弁輪拡大を認め,矩形切除術と弁輪形成術が行なわれた.術後の経胸壁心エコー検査では,左室拡張末期径/収縮期径が70/58mm→57/43mmと縮小 ,左室駆出率は35.4→49.8%まで改善し,僧帽弁閉鎖不全症はごくわずかになった.術後合併症はなく,経過は良好で歩行退院となり,現在は,経蝶形骨洞下垂体腺腫摘出術を待機中である.
【考察・結語】
摘出された僧帽弁の組織所見では,石灰化や炎症細胞の浸潤を認めず,リウマチ性や感染性心内膜炎が誘因の僧帽弁閉鎖不全症の可能性は否定的であった.また,明らかな酸性ムコ多糖体の増加を確認することができなかったが,過剰な成長ホルモンが僧帽弁の脆弱性を招き,弁輪拡大,僧帽弁閉鎖不全症,心拡大を引き起こし,僧帽弁複合体に対して過剰な張力をおよぼして僧帽弁腱索が断裂するまでに至ったことが疑われた.未治療の先端巨大症に合併した僧帽弁逸脱症に対して外科的治療を行った1例を経験したので,報告する.