Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 運動器
病態へのアプローチ

(S774)

両側腸腰筋膿瘍による敗血症性ショックのマネージメントに苦慮した一例

Difficult management of septic shock with bilateral iliopsoas abscess; case report

泉 学

Manabu IZUMI

済生会宇都宮病院総合診療科

General medicine, Saiseikai Utsunomiya Hospital

キーワード :

 敗血症性ショックは,感染症の中でも重症病態である.その病態の中には,心機能が低下している症例が混在しており,Septic cardiomyopathyと呼ばれる状態もあるといわれ,その治療には難渋することも多い.我々は,両側の腸腰筋膿瘍から敗血症性ショックの状態に至り,集学的治療を施したが,低左心機能のため治療に難渋した症例を経験したため報告する.
 症例は,70歳代男性.4月某日転落により左踵を骨折.当初保存的に加療する方針となっていたが,数日後に固定手術を行った.経過は良好で退院となった.約1週間後の外来受診時にも症状の訴えはなかったが,腰痛がひどくなってきたということで,さらに1週間後に再度外来を受診.NSAIDs及びPPIの処方がなされていたが,3日間経過したあとも処方の効果がなく,発熱も認められたため再診.WBC 12200, CRP 25と延長反応の亢進を認めたため入院となった.当初より痛みのために不穏傾向が強く,鎮静下が必要な状態であった.精査目的で行ったMRIでL3/4の化膿性椎間板炎及び両側腸腰筋膿瘍を認めた.血液培養の結果からS. aureusを認めた.抗菌化学療法(CEZ+TEIC)を行いつつ,膿瘍のドレナージを行ったが,痛みは改善せず,呼吸状態が徐々に悪化し,当科へコンサルトとなった.レントゲン上はうっ血性心不全の状態であり,MSSA菌血症の状態であったため,IEを疑い心エコーを行った.Global EF 30%台の左室収縮不全を認めた.利尿剤を使用し,一時症状の改善を認めたが,せん妄状態が続き,治療に差し支える状態であったため,挿管管理となった.Acute Kidney Injury(AKI)と思われる腎機能の悪化があり,Renal replacemnent therapy(RRT)を併用とした.せん妄は,脳炎あるいは髄膜炎の合併と判断し,抗菌薬は髄膜移行の良いものを選択した.全身状態が徐々に改善するも,腎機能の改善はその後も得られなかった.KDIGO stage 3のAKIから慢性腎不全への以降と考えられたが,約8週間の経過で自排尿が得られるようになり,透析カテーテルは抜去に至った.心拡大は残っており,BNPも高いままを推移し,心機能も横ばいの経過であった.当初,Septic cardiomyopathyと考えていたが,元々の低心機能の可能性が大きいと考えられた.長期入院による廃用症候群があり,リハビリテーションを行っていたが,リハビリの範囲内では心臓由来と思われる症状はなかった.その後,リハビリテーションの病院へ転院となったが,転院後間もなく心不全と思われる症状が顕在化し,当院へ再度入院.心不全の治療後に行ったCAGで多枝病変を認めた.血行再建後は心不全症状を認めず,ADLも回復し,自宅退院となった.Septic cardimyopathyと呼ばれる病態であっても,背景に虚血を引き起こしている可能性もあり,感染症からの改善が得られても心機能が改善されない場合には,IHDの可能性を念頭に置く必要がある.本症例は,長引いたAKI(KDIGO3)があり,BNPの高値について,腎機能の関与が大きいと判断していたことと,ADLの改善のためにリハビリテーションを優先したため,転院後の心不全発症となった症例であった.