Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 腎泌尿
腎泌尿

(S757)

前立腺針生検後の急性尿閉の危険因子についての検討

Acute urinary retention following transperineal prostate biopsy

小島 宗門, 髙田 英輝, 矢田 康文, 吉田 和彦, 小倉 剛, 早瀬 喜正

Munekado KOJIMA, Hideki TAKADA, Yasufumi YADA, Kazuhiko YOSHIDA, Tsuyoshi OGURA, Yoshimasa HAYASE

1名古屋泌尿器科病院泌尿器科, 2丸善クリニック泌尿器科

1Department of Urology, Nagoya Urology Hospital, 2Department of Urology, Maruzen Clinic

キーワード :

【目的】
前立腺生検に伴う有害事象の一つとして,急性尿閉が知られている.急性尿閉は,患者に与える苦痛も大きく,その可能性を予測することは,インフォームドコンセント(IC)の際にも有意義である.今回,自験例を対象に,前立腺生検後の急性尿閉の実態を明らかにするとともに,とくに急性尿閉の危険因子について検討した.
【対象・方法】
対象は,2000年8月から2017年10月までの間に,当院で行った経会陰的前立腺針生検(原則として腰椎麻酔)のうち,初回生検で,尿閉の既往がなく,生検前の尿流検査で排尿量が100mL以上であった計917例である.尿閉の有無と,生検前に得られた各種の臨床パラーメータを比較検討した.
【結果】
生検の結果,917例中31例(3.4%)で尿閉が生じた.尿閉群と非尿閉群との間では,前立腺容積(44.8 vs 30.8mL, p<0.0001),TZ容積(24.3 vs 12.8mL, p<0.0001),TZ index(TZ/前立腺容積,0.49 vs 0.31, p<0.0001),最大尿流率(MFR,9.3 vs 13.2mL/s, p<0.0005),IPSSトータルスコア(14.0 vs 109, p<0.05),生検陽性率(35% vs 45%, p<0.05)に有意な違いが認められた.年齢(66.8 vs 68.歳),生検本数(17.1 vs 18.0本),残尿量(47.5 vs 32.1mL)等では,両者間で有意な違いは認められなかった.単変量ロジスティック解析でも同様に,上記6つのパラメータが有意な危険因子であった.しかし,多変量ロジスティック解析では,TZ indexとMFRの2つが有意な独立危険因子であった.TZ index≧0.3 and/or MFR<10mLの症例では,591例中30例(5.7%)で尿閉が発生していたが,TZ index<0.3 and MFR≧10mLでは,尿閉を来したのは326例中1例(0.4%)のみであった(p<0.0001).その結果,生検前にTZ index≧0.3 and/or MFR<10mLの症例では,生検後尿閉に陥る危険性が,それ以外(TZ index<0.3 and MFR≧10mL)の症例に比べ,17.4倍高かった.
【考察】
今回の検討結果から,前立腺生検を受けた患者の3.4%で尿閉という有害事象が起こることが明らかとなった.生検を実施する泌尿器科医にとっては,この頻度を可能な限り減少させることが肝要である.ロジスティック解析の結果から,経直腸超音波で得られたTZ indexと尿流検査で得られたMFRの2つのパラメータが,尿閉を予測するうえで有用と考えられた.これらを用いても尿閉の可能性を予測するのには限界があるが,少なくとも,TZ indexが0.3未満で MFRが10ml/s以上の場合には,尿閉に陥る可能性はかなり低いと予想される.それ以外の患者では,5.7%で尿閉に陥る可能性があることから,慎重な対応が必要と思われる.その予防効果は不明ではあるが,このような症例には生検前のα1遮断薬の予防投与等が有効かとも考えられる.前立腺針生検のICの説明に際しては,生検後尿閉の可能性に言及する必要があり,その際には今回得られた情報も追加することで,より充実したICになると思われる.