Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 産婦人科
胎児治療 他

(S708)

胎児心疾患モデルマウスに対する経胎盤的PDE5阻害剤投与の有効性

Efficacy of maternal administration of PDE5 inhibitor in murine model of congenital heart defect

三好 剛一, 久光 隆, 渡邉 裕介, 中川 修, 細田 洋司

Takekazu MIYOSHI, Takashi HISAMITSU, Yusuke WATANABE, Osamu NAKAGAWA, Hiroshi HOSODA

1国立循環器病研究センター再生医療部, 2国立循環器病研究センター分子生理部

1Regenerative Medicine and Tissue Engineering, National Cerebral and Cardiovascular Center, 2Molecular Physiology, National Cerebral and Cardiovascular Center

キーワード :

【目的】
胎児先天性心疾患において胎内で心不全が進行した場合に,現時点で有効な胎児治療法はなく早期娩出せざるを得ず,特に早産となった場合には予後は極めて不良である.これまで我々は,小動物用超音波イメージングシステムを用いてHey2/Hrt2欠損マウスの胎仔期の心形態及び循環動態を予備検討したところ,ホモ接合型(KO)マウスにおいて心室中隔欠損症及び右室低形成を呈し,胎齢と共に拡張型心筋症様の左室拡大の進行を認め,一部で胎仔心不全を呈することを見出した.
本研究では,同マウスを用いて,PDE5阻害剤の経胎盤的投与による胎仔胎盤循環への効果を検討した.
【対象と方法】
Hey2/Hrt2ヘテロ欠損マウス同士交配後の妊娠マウスを,無治療群(Vehicle),Tadalafil 0.04mg/mL投与群(T0.04),Tadalafil 0.08mg/mL投与群(T0.08)の3群(各9匹)に分けた.Tadalafilは胎生10.5~18.5日目まで母獣に投与した.胎生18.5日目に胎仔超音波評価を行った後,速やかに摘出した.各胎仔のgenotypeを確定し,KOマウスにおける超音波所見を3群間で比較検討した.胎児超音波評価は,小動物用超音波高解像度イメージングシステム(Visual Sonics Vevo2100®)を用いて,胎仔の心形態診断及び心機能評価,臍帯動静脈の血流評価を行った.心収縮能評価としてB-modeによる右室面積変化率及びM-modeによる左室内径短縮率,心拡張能評価としてPulsed-wave Dopplerによる右室・左室流入血流速度波形 E/Aを用いた.超音波による測定は全て同一検者によって実施した.
統計解析にはTukey-Kramer多重比較検定を用い,P<0.05を有意差ありとした.本研究は,センター内の動物委員会の承認を得て実施した.
【結果】
胎生18.5日目において,KO胎仔数はVehicle群17匹,T0.04群20匹,T0.08群14匹であった.胎仔・胎盤重量及び胎仔心拍数に3群間で差を認めなかった.胎仔胸水はVehicle群2匹,T0.04群1匹,T0.08群4匹で認めたが統計学的な有意差はなかった.左室拡張末期面積及び内径に3群間で差を認めなかった.左室流入血流速度波形E/Aに3群間で差はなかったが,T0.04群で左室内径短縮率が有意に高値であった(P<0.01).臍帯動脈resistance index及び拡張期途絶は3群間で有意差を認めなかった.胎仔心臓の組織切片をHE染色に供し,左室心筋緻密化層を計測したところ,KOではWild typeの約2/3に菲薄化していたが,Tadalafil投与による変化は認めなかった.T0.04群でVehicle群に比し左室心筋組織のANP発現低下を認めた(P<0.01).
【考察】
小動物用超音波イメージングシステムを用いることで,Hey2/Hrt2 KOマウスにおいて,胎仔期に心室中隔欠損症,右室低形成,拡張型心筋症様の左室拡大及び一部で心不全を呈することが再現性をもって確認された.同マウスは,出生後1ヶ月以内に心収縮能が低下し死亡することが報告されており,胎児期から潜在的に心不全の病態を有していると推察された.
同マウスにおいて,PDE5阻害剤の経胎盤的投与により,胎仔の左室形態及び容量負荷の変化を介さずに,左室収縮能の改善効果が確認された.胎盤血流への影響を認めないことからも,PDE5阻害剤の胎仔心筋への直接作用であることが示唆された.一方で,PDE5阻害剤の高用量群では治療効果を認めなかったことから,有効な治療域があることが示唆された.
胎仔胸水の有意な改善効果が示せなかったこと,心室中隔欠損症のサイズによる影響の詳細な解析ができていないことなど,検証すべき点は幾らか残るが,PDE5阻害剤は胎児心不全治療薬の候補となり得ると考えられた.
【結論】
胎児心疾患モデルマウスにおいて,経胎盤的PDE5阻害剤投与による胎仔心収縮能の改善効果が確認された.