Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 消化器
びまん性肝疾患 2

(S699)

せん断波伝搬速度計測の実態と伝搬状態可視化による精度向上効果についての検討

Assessment of precompression effect in shear wave elastography and accuracy improvement by visualization of shear wave propagation

紺野 啓, 山本 さやか, 鯉渕 晴美, 谷口 信行

Kei KONNO, Sayaka YAMAMOTO, Harumi KOIBUCHI, Nobuyuki TANIGUCHI

自治医科大学臨床検査医学

Department of Clinical Laboratory Medicine, Jichi Medical University

キーワード :

【はじめに】
せん断波伝搬速度の計測による組織弾性評価は各種疾患の診断に有用だが,計測値のバラツキや検者間信頼性に影響しうる,組織におけるせん断波伝搬の実態やその影響についての検証は不十分である.我々は組織におけるせん断波の伝搬状態を可視化しうる表示法を含めて評価を行い,これらについて評価・検討した.
【対象と方法】
対象は肝の超音波検査を施行した30例.使用装置は東芝メディカルシステムズ製Aplio i800.同機に搭載されたShear Wave Elastography(SWE)の各種表示法(伝搬速度,propagation,dispersion)で,肝実質内のせん断波の伝搬状態を観察しながら伝搬速度(Vs)計測を行い,標準偏差(SD)とともに評価した.計測は通常の計測(one shot)と,短い間隔で複数回の計測を連続して行う計測(multi shot)を単独または組み合わせて行った.multi shotでは,1回10フレーム(約10秒間)を1単位とし,フレーム毎の計測値の平均をVsとした.計測は1)呼吸相を問わずに随時息止めを(随時),次いで2)深吸気後に息止めを(深吸気),引き続き3)深呼気後に息止めを(深呼気)それぞれ指示して行い,その後4)息止めを指示せずに自発呼吸継続のままで(息止めなし)行い,息止め状態の違いによる計測値の差異を評価した.one shotでは,随時の息止めを指示して計測を10回行い,平均値をVsとした.上記計測は1連のシークエンスとして行い,大きく外れた計測値の除外などの操作は加えなかった.計測は全て1名の超音波専門医が担当した.
【結果】
1.計測数はmulti shot19例(うちone shot併用例8例),One shot11例であった.
2.Vsはone shot 1.79±0.77 m/s,multi shot 1.56±0.34 m/sで,両者併用例では,One shot (1.63±0.35 m/s),multi shot (1.70±0.44 m/s)間に有意差を認めなかった.
3. Vsが最も大きい息止めは,随時3例,深吸気5例,深呼気4例,息止めなし9例で,息止めなしでVsが速めに,Vsが最も小さい息止めは,随時7例,深吸気7例,深呼気3例,息止めなし2例で,随時または深吸気でVsが遅めに計測された.
4. SDが最も大きい息止めは,深吸気8例,深呼気3例,息止めなし8例で,深吸気または息止めなしでVsのバラツキが多く, SDが最も小さい息止めは,随時3例,深吸気5例,深呼気9例,息止めなし2例で,深呼気でバラツキが小さかった.
5. one shotによる計測値(VsおよびSD)はmulti shotによる計測値の最大値と最小値の中間(それぞれ6例,4例)のものが最も多かった.
6.propagation表示では多種多様なパターンが観察されたが,Vsの上昇は等高線間隔の増大として,SDの増大は 個々の等高線の細かな動揺(fluttering),あるいは伝搬につれて変化する等高線形状の変化の大きさとして視覚的に確認可能であった.
7.multi shot によるpropagationの観察では,個々の等高線の乱れが少なく,伝搬に伴う形状変化も少ない状態では,観察期間中の変化はわずかであったが,乱れが多く形状変化も多い状態では,観察期間中の変化も大きい傾向がみられた.
【考察】
本検討により,せん断波伝搬速度の計測では,1)同一の指示下でも,実際の息止めの状態は患者毎に異なり,肝組織のprecompression効果は必ずしも一定とならないこと,2)こうした状態の差異により計測値が実際にバラつくこと,3)これら生体側の状態を計測値から推定するのは困難であることが示された.こうした計測の実態下では,計測に際してせん断波の伝搬の状態を可視化し,短時間に行われる複数回の計測を比較することは,計測の精度を向上させうる有用な手法と考えられる.