Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 消化器
肝線維化/脂肪化 診断

(S688)

超音波検査を用いた肝予備能評価の検討

Examination of liver functional reserve by ultrasound elastography

杉浦 諒, 桒谷 将城, 西田 睦, 平田 幸司, 加藤 新, 川久保 和道, 坂本 直哉

Ryo SGUIURA, Masaki KUWATANI, Mutsumi NISHIDA, Koji HIRATA, Shin KATO, Kazumichi KAWAKUBO, Naoya SAKAMOTO

1北海道大学病院消化器内科, 2北海道大学病院検査・輸血部/超音波センター

1Department of Gastroenterology and Hepatology, Hokkaido University Hospital, 2Division of Laboratory and Transfusion Medicine, Hokkaido University Hospital

キーワード :

【背景】
肝胆道系疾患ではその病態に伴い様々な治療が存在する.肝悪性腫瘍は根治を目的とした外科的切除を行うことが多く,肝門部領域胆管癌や胆嚢癌については外科的切除が唯一根治を期待できる治療である.特に肝障害を背景にした症例や大量肝切除を要する症例では,術後の肝不全を予防するための術前の正確な肝予備能評価が必要となる.肝予備能の評価方法として本邦ではIndocyanine green(ICG)負荷試験が汎用されているが,有効肝血流量,閉塞性黄疸など様々な因子の影響を受け,薬量や採血時間の厳密性,検査前の安静などが要求されることから世界的な標準検査法とはなってない.そのため簡便,非侵襲的な肝予備能の評価方法が求められている.近年,超音波エラストグラフィを用いた非侵襲的な肝線維化診断に関する検討は多数報告されているが,肝予備能との関連についての検討は少ない.
【目的】
超音波エラストグラフィによる肝弾性値にて肝予備能の推定が可能であるかを検証すること.
【方法】
2016年10月-2017年12月,当院にて肝胆道系疾患に対して肝切除を予定し,肝硬度(VTQ)とICG負荷試験(ICG-R15)を行った35例を前方視的に検討した.使用装置はSiemens社製S2000, 使用探触子は4C-1 transducer(1.0-4.5MHz).1名の超音波経験年数7年の消化器内科専門医が施行した.閉塞性黄疸例では本来の肝予備能に関わらずVTQ,ICG-R15が高値となるため,胆道ドレナージ術後,血清T-BIL値 2 mg/dl以下に減少後に検査を行った.肝左葉(VTQ-L),肝右葉(VTQ-R)で各々測定し,その平均値をmVTQとした.胆道疾患に対する減黄後でドレナージ不良な肝葉は除外し,片葉のみのVTQ値を用いた.検討項目は1)患者背景,2)VTQ/ICG-R15値,3)mVTQとICG-R15の相関,4)VTQ-L/VTQ-RとICG-R15の相関とした.
【結果】
1)平均年齢67.4歳,男性29例(82.9%),背景疾患は肝門部領域胆管癌13例,肝細胞癌7例(C型肝炎3例,B型肝炎3例,アルコール性肝炎1例),肝内胆管癌7例,遠位胆管癌2例,胆嚢癌2例,肝内胆管結石2例,肝血管腫1例,肝肉腫様癌1例であった.Child-Pugh分類はA 34例,B 1例,C 0例であった.2)mVTQ 1.270(±0.337)m/s,VTQ-L(25例)1.515(±0.599)m/s,VTQ-R(28例)1.234(±0.395)m/s,ICG-R15 14.0(±8.8)%であった.3)ピアソンの相関係数を用いたVTQとICG-R15の相関係数はmVTQ 0.558(P<0.01).4)VTQ-L 0.658(P<0.01),VTQ-R 0.559(P<0.01)であった.
【考察】
VTQとICG-R15に有意な中等度の相関が見られた.これまで肝弾性度と肝予備能との関連性の報告は2報のみである.Fung Jらは,肝細胞癌44例でFibroscan弾性値を2群に分け,ICG-R15は有意に上昇していたと報告しているが,相関は示されていない(Fung J, et al. PLoS One. 2013; 8:e72306.).Sun XLらは,単発の肝腫瘤患者66例でVTQ-RとICG-R15は順相関を示したと報告している(Sun XL, et al. World J Gastroenterol. 2015; 21:9648-55.).既報と異なり,本研究での背景疾患は様々であり,特に胆道系疾患が多く含まれていた.肝切除が必要となる胆道系悪性腫瘍では,右葉,左葉に関わらず切除予定の肝葉はドレナージせず手術待機することが多く,その中で右葉切除が選択される場合が多い.そのため予備能の評価はVTQ-Rのみならず,VTQ-L/mVTQの評価が必要となる.VTQ-LはVTQ-Rより心拍動の影響などで高値となるが,本研究ではむしろVTQ-Lが良好な結果であり,中等度の相関が示されていることから,VTQ-Lも肝予備能評価に有用であると考えられた.
【結語】
超音波エラストグラフィによる肝弾性度測定は肝予備能評価に有用であり,mVTQ/VTQ-L/VTQ-RはいずれもICG-R15に中等度の相関が示された.