Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 消化器
脾臓/その他/症例

(S685)

門脈大循環シャントを伴う肝性脳症に対し緊急シャント閉鎖術を行った脾破裂の一例

A case of occlusion of portosystemic shunt for traumatic splenic rupture with hepatic encephalopathy

山中 雅也, 杉本 博行, 岸田 貴喜, 笹原 正寛, 田中 伸孟, 間下 優子, 横山 裕之, 望月 能成, 谷口 健次

Masaya YAMANAKA, Hiroyuki SUGIMOTO, Takayoshi KISHIDA, Masahiro SASAHARA, Nobutake TANAKA, Yuko MASHITA, Hiroyuki YOKOYAMA, Yoshinari MOCHIZUKI, Kenji TANIGUCHI

小牧市民病院外科

department of surgery, komaki city hospital

キーワード :

【緒言】
門脈大循環シャントによる脳症は見逃されることが多く,特に高齢者においては認知機能の低下として処理されることがある.今回,門脈大循環シャントを伴った外傷性脾破裂症例に対し,術中超音波検査を判断材料として,脾摘および門脈大循環シャント閉鎖術を施行した症例を経験したので報告する.
【症例】
84歳女性.ふらつきを主訴に近医受診し入院となった.入院中,転倒し左肋骨骨折を合併したが保存的治療にて軽快し退院となった.受傷してから11日後,意識消失のため当院救急外来に搬送され,遅発性の脾破裂および腹腔内出血と診断した.またCTでは肝硬変を認め,脾静脈から左腎静脈へ続く拡張したシャント血管を認めた.輸血にて全身状態の安定化を行いつつ緊急手術を施行した.開腹すると多量の腹腔内出血および脾破裂部からの活動性出血を認めたため脾摘術を施行し,この段階でバイタルサインは安定した.門脈大循環シャントによる肝性脳症の可能性があったため術中超音波検査を施行したところ,門脈臍部での門脈逆流を認めた.脾静脈から左腎静脈に流入する血管(脾腎シャント)は著明に拡張しており,容易に認識可能であったためテストクランプを行ったところ門脈血流はすみやかに順行性となった.また,脾腫や胃静脈瘤は認めなかったため,シャント閉鎖後の静脈瘤破裂等の合併症のリスクは低いと判断した.これらを判断材料として,肝性脳症の原因と考えられる脾腎シャントを結紮した.術後,門脈血流は順行性を維持し,術前高値であった血清アンモニア値も259μg/dlから正常値に速やかに低下した.
【考察】
肝性脳症の原因として,①肝硬変などによる肝機能不全,②シャント血管による門脈大循環シャント,③尿素回路の先天的代謝障害などがある.このうち門脈大循環シャントによる脳症は,見落とされがちな疾患の一つであり,認知症状を呈する患者では念頭におく必要がある.今回,肝硬変を有する高齢患者であり前医では門脈大循環シャント血管に対する処置は行われなかった.門脈大循環シャント閉鎖の手技として全身状態不良な症例の場合,手術に比べ侵襲の低いバルーン下逆行性静脈的塞栓術(B-RTO:balloom occluded retrograde transvenous obliteration)が行われることが多いが,今回は外傷性脾破裂という特殊な病態であり,十分な術前検査を行う余裕はなく,術中にシャント閉鎖の適応を判断する必要があった.門脈大循環シャント閉鎖に伴う問題点として,シャント閉鎖による門脈圧亢進症,静脈瘤破裂や難治性腹水の問題がある.予定手術の場合,門脈圧測定などの検査がシャント閉鎖の適応決定に有用とされているが本症例では時間的な余裕がなく施行できなかった.本症例では腹水や静脈瘤破裂の既往がなかったこと,脾腫がなかったこと,壁外からは静脈瘤は認めなかったこと,術中超音波検査ですみやかに順行性血流が確認できたことなどから門脈大循環シャント閉鎖術の適応とした.術後も門脈血流は順行性を維持し意識状態も速やかに改善しており,門脈大循環シャント閉鎖術は有効であったと考えられた.
【結語】
緊急門脈大循環シャント閉鎖術の適応の判断に術中超音波検査が有用であった.