Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 消化器
消化管/症例

(S672)

びまん性の腫瘍内出血を呈した巨大十二指腸腺癌の一例

A case of giant duodenal adenocarcinoma with diffuse hemorrhage

蕪木 理子, 森 雅美, 中尾 由佳, 井西 千晶, 錦 昌吾, 山田 沙由理, 橋本 重夫

Riko KABURAGI, Masami MORI, Yuka NAKAO, Chiaki INISHI, Syougo NISHIKI, Sayuri YAMADA, Shigeo HASHIMOTO

1PL病院中央検査部, 2PL病院病理部

1Department of Clinical Laboratory, PL hospital, 2Department of Pathology, PL hospital

キーワード :

【はじめに】
消化管癌において十二指腸癌は比較的稀とされている.今回,出血を伴って巨大化した十二指腸癌を経験したので若干の知見を加えて報告する.
【症例】
54歳女性.2017年4月,他院の血液検査にて貧血を指摘され,胃潰瘍と診断された.6月より心窩部痛,食思不振,嘔気嘔吐の訴えがあり他院受診にて採血およびCT検査より急性膵炎および膵頭部腫瘍が疑われ,当院紹介,入院となった.基礎疾患としてvon Recklinghausen病(VRD)を認めた.入院時検査データより炎症反応上昇,著名な貧血を認め胆道系酵素,アミラーゼが高値であった.入院時の単純CT検査で膵臓軽度腫大および膵頭部周囲脂肪濃度上昇が見られたことから急性膵炎が疑われた.十二指腸には下行脚,乳頭部で著明な拡張があり周囲小リンパ節の散在も見られ,十二指腸乳頭部腫瘍の可能性を否定できないため精査となった.
【超音波検査所見】
十二指腸下行脚に約8x5x6cmの巨大な腫瘤を認めた.腫瘤は十二指腸内腔に存在し表面が整で内部は低エコー不均一であった.腫瘤と壁との連続性については確認できなかった.カラードプラでは腫瘤の中心のみ豊富な拍動性の血流シグナルが見られた.腫瘤による十二指腸内腔の狭小化は見られたものの内容物の通過が確認され閉塞所見は認めなかった.下行脚周囲には複数のリンパ節腫脹を認めた.膵臓はびまん性腫大および膵管軽度拡張を認め,輪郭はやや不明瞭化しており,周囲組織炎症波及が示唆された.総胆管は拡張していたが肝内胆管の拡張は見られなかった.
【造影CT検査所見】
十二指腸下行脚内に造影される腫瘤を認め,十二指腸腫瘍が疑われた.周囲に小リンパ節が散在していた.
【上部内視鏡所見】
十二指腸球部から下行脚にかけて巨大な腫瘍の充満が確認され,進行型十二指腸癌が疑われた.
以上の所見より進行型十二指腸癌診断のもと,膵頭十二指腸切除術が施行された.
【切除標本肉眼所見】
腫瘍は9x7x3.5cmで胆膵管膨大部に近接する十二指腸粘膜から隆起し,約2.3x1.5cmのくびれを有していた.膨隆部の殆ど全体に出血が確認された.
【病理学的所見】
腸型の腺癌であり,腫瘍は大小不同の円形核で核小体明瞭な異型細胞が迂曲管状および乳頭状の増殖を示していた.固有筋層まで浸潤した進行癌であり,腫瘍全体にびまん性の出血が見られた.リンパ節転移は認めなかった.
【考察】
原発性十二指腸癌は消化管癌の0.03~0.25%と稀である.肉眼的形態は多彩な表面性状を示し,大きさは2cm以下のものが約半数を占める.しかし本症例のように出血を伴い巨大化したものはあまり例を見ない.VRD患者の一部に血管の脆弱化をもたらす血管病変の存在が報告されていることから,本症例の腫瘍内多量出血はVRDとの関連の可能性も否定できないものと思われる.また急性膵炎の併発および総胆管の拡張は巨大腫瘍による乳頭部の圧排によるものと推察された.  切除標本より腫瘍は癌が中心部の極わずかな部分のみに見られ,その周囲のほとんどはびまん性の出血を呈していた.これを超音波像と比較すると,中心部に限局する血流シグナルは癌の部分に相当し,腫瘍の大部分が低エコー不均一であったことはびまん性の出血に相当するものと思われた.また超音波検査では腫瘍の発生部位を指摘することができなかったが,その理由として腫瘍が巨大であったこと,膨大部付近からの発生であり壁構造の観察が困難であったことが挙げられる.さらに巨大腫瘍による腸管閉塞の可能性も考えられたが,超音波検査では十二指腸内腔の狭小化はあるものの内容物の通過が確認できたことから閉塞を否定できた.このことはリアルタイムに観察できる超音波検査が有用であると思われた.