Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 循環器
循環器 その他

(S634)

当院での90歳以上の症例における経胸壁心エコー図検査結果

Results of the transthoracic echocardiography in elderly cases aged over 90 years old: a single institutional study

南 貴子, 恒任 章, 吉牟田 剛, 内田 祐里, 佐藤 大輔, 千葉 章代, 河野 浩章, 前村 浩二

Takako MINAMI, Akira TSUNETO, Tsuyoshi YOSHIMUTA, Yuri UCHIDA, Daisuke SATO, Akiyo CHIBA, Hiroaki KAWANO, Koji MAEMURA

長崎大学病院循環器内科

Cardiovascular medicine, Nagasaki University Hospital

キーワード :

【目的】
近年当院で心エコー図検査を受ける90歳以上の症例数は増加傾向である.日本において健常の70歳代の胸壁心エコー図検査(TTE)を検討したThe JAMP Studyが報告されているが,90歳以上を対象とした報告はない.当院での90歳以上の症例の検査データを解析し,その特徴を把握し今後の高齢者の心機能の評価に役立てる.
【対象と方法】
当院超音波センターにて2009年9月1日から2016年5月末までTTEを受けた90歳以上のデータのうち必要な項目が測定されていた症例を対象とした.同じ症例で複数回検査を施行している場合は,最後のデータを使用した.90歳以上の日本人正常範囲を評価するのが目的であるが,健常な90歳以上のデータを収集することは困難なため,上記対象のうち明らかな心・腎・大血管疾患がなく左室収縮能の保たれた左室駆出率55%以上の症例を抽出した.除外症例は,心不全,開心術後,手術適応のある弁膜症,急性・陳旧性心筋梗塞,心筋症,虚血性心筋症,たこつぼ心筋症,ペースメーカー植込み後,房室ブロック,心膜液貯留,2度以上の房室ブロック,洞不全症候群,大動脈解離,大動脈瘤,慢性腎不全,大動脈通過血流速度4m/s以上,三尖弁逆流圧較差35mmHg以上とし,男女別に基準値を求めた.
検討項目は,身長(cm),体重(kg),BSA(m2),TTE測定値のAOD(mm), LAD(mm), IVS(mm), LVPW(mm), LVDd(mm), LVDs(mm), EF(%), E波(cm/sec), A波(cm/sec), E/A, e’中隔(cm/sec), E/e’中隔, e’側壁(cm/sec), E/e’側壁, DcT(msec)とした.データの正規性はKolmogorov-Smirnov 検定で行った.正規分布の場合,95%信頼区間を基準値とした.非正規分布の場合,95%信頼区間を参考値とした.
次にTTE測定値を男女で比較検討した.ともに正規分布の項目はUnpaired t-test,非正規分布項目はMann Whitney testで検討し,p<0.05を有意差ありとした.
【結果】
適格症例数は73例(男性19例,女性54例).平均年齢は,男性92.0歳,女性92.4歳.TTE測定値は,男性はすべて正規分布を示した.女性では,IVS, LV PW, E/A, E/e’中隔, E/e’側壁が非正規分布で,その他は正規分布であった.各測定値の基準値は,(項目:男性の値/女性の値)とし,以下に示す.
AOD:32.9-36.6/30.1-31.7,LAD:33.4-40.4/32.4-35.6,
IVS:9.4-10.9/10.0-11.0,LVPW:9.7-11.1/9.7-10.6,
LVDd:43.3-49.4/37.2-40.6,LVDs:26.8-30.5/22.4-24.7,
EF:66.1-70.4/69.0-72.0,E波:56.3-70.7/72.4-82.0,
A波:86.5-114.8/104.5-119.5,E/A:0.50-0.93/0.65-0.81
e’中隔:4.6-5.7/4.9-5.5,E/e’中隔:11.0-15.0/13.9-16.9,
e’側壁:5.9-8.0/6.5-7.3,E/e’側壁:8.2-12.1/10.6-13.1,
DcT:240.4-295.1/235.7-274.8
男女別の比較で有意差が認められた項目は(男性平均±標準偏差:女性平均±標準偏差),身長(158.0±5.5:145.4±6.5),体重(56.4±8.5:44.6±7.7),BSA(1.60±0.13:1.35±0.14),AOD(34.8±3.8:31.0±2.9),LVDd(46.4±6.3:38.9±6.3),LVDs(28.6±3.8:23.6±4.3),E波(63.5±15.0:77.1±17.7)であった.
【考察】
The JAMP Studyで報告のある健常人のデータでは,20歳代から経年的にE波,E/A,e’は減高し,A波,E/e’は増高するが,90歳以上の本検討とThe JAMP Studyのデータを比較すると,E波が増高した以外は,同じ傾向であった.男女ともにE波の増高があったがA波の増高もあり,E/Aは上昇しなかった.女性のほうが男性よりE波の波高が高かった.
【結論】
当院における90歳以上の左室収縮能が保たれている症例の基準値を設定した.90歳以上のE波は70歳代健常人よりも高値であった.