Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 循環器
腫瘍 その他 2

(S629)

大動脈弁腫瘤性病変の1例

A case of aortic valve mass lesion

古川 郁乃, 池田 昌絵, 田仲 里衣, 草光 貴子, 杉原 悦子, 有江 潤子, 廣田 稔, 梶川 隆, 森元 博信

Ikuno FURUKAWA, Masae IKEDA, Rie TANAKA, Takako KUSAMITSU, Etsuko SUGIHARA, Junko ARIE, Minoru HIROTA, Yutaka KAJIKAWA, Hironobu MORIMOTO

1独立行政法人国立病院機構福山医療センター臨床検査科, 2独立行政法人国立病院機構福山医療センター循環器内科, 3福山循環器病院心臓血管外科

1Department of Clinical Laboratory, National Hospital Organization Fukuyama Medical Center, 2Department of Cardiology, National Hospital Organization Fukuyama Medical Center, 3Department of Cardiovascular Surgery, Fukuyama Cardiovascular hospital

キーワード :

【症例】
85歳 男性
【既往歴】
糖尿病,胃潰瘍,左鼠径ヘルニア,右肋骨骨折
【現病歴】
右鼠径ヘルニア術前スクリーニング検査目的で経胸壁心エコーを行い,大動脈弁腫瘤を指摘された.
【身体所見】
身長160cm,体重56kg,胸部聴診上心雑音無し,血圧123/75mmHg,特記すべき自覚症状なし.
【術前血液検査所見】
WBC 3.8×103/μ,Hb 12.6g/dL,PT時間 13.5秒,PT活性値 94%,PT INR値 1.04,APTT 29.2秒,ATⅢ 89%,FDP 21.4μg /mL,D-ダイマー 3.67μg /mL,CRP 1.92mg /dL,HbA1c 6.6%,クレアチニン 0.92 mg /dL,尿素窒素 21 mg /dL
【心電図所見】
洞調律,完全右脚ブロック
【経胸壁心エコー所見】
大動脈弁無冠尖に約1.4×1.5cmの等輝度な腫瘤を認めた.大動脈弁は三尖とも硬化を認めるが開放制限や血流障害は認めなかった.心房中隔に幅13mm,最大突出距離13.7mmの瘤を認め,拡張末期に左房から右房へごく僅かなシャント血流を認め,卵円孔開存が疑われた.左室駆出率は67.2%と左室収縮は良好で,局所壁運動異常は認めなかった.
【心臓MRI所見】
大動脈弁無冠尖に接して径1.5cm程度の腫瘤を認めた.腫瘤はT1強調画像では描出不良であった.T2強調画像では高信号で,脂肪抑制法では抑制されなかった.脂肪腫は否定的であった.
【経食道心エコー検査所見】
大動脈弁無冠尖の弁輪部を中心に,約1.6×1.2cmの卵形の腫瘤を認めた.腫瘤の表面は平滑で,内部エコーは等輝度で均一であった.明らかな茎は認めず可動性は軽度であった.心房中隔瘤を認め,左房から右房へ微量のシャント血流を認めた.明らかな欠損孔は指摘されなかった.
【経過】
大動脈弁腫瘍が疑われたが,大動脈弁に発生頻度の高い乳頭状線維弾性腫は形状から考えにくく,粘液腫の可能性は否定できないが,好発部位ではなかった.1cmを超える腫瘤であり血栓塞栓症のリスクが考えられるため,患者本人や家族と相談したところ切除を希望された.手術目的に他院の心臓血管外科へ紹介となり,大動脈弁腫瘤切除術が行われた.また,腫瘍である可能性も考え,弁尖を切除し大動脈弁置換術が施行された.心房中隔瘤に対しては心房中隔瘤切除術が行われた.また心房中隔瘤の上端には卵円孔開存が認められ,直接閉鎖術が行われた.術中所見では,大動脈弁は3尖あり一部に石灰化を認め,無冠尖に腫瘤を認めた.腫瘤は球状で径は1.5cm,辺縁は平滑であった.1~2mmほどの茎を持ち,大動脈弁無冠尖の弁腹~弁輪部における位置に付着していた.術後の病理学的検査の結果,切除された腫瘤はフィブリンを主体とする白色血栓であった.一部に線維化や毛細血管侵入などの器質化が認められ,細菌塊や悪性像は指摘されなかった.術後検査で抗凝固因子であるプロテインCの抗原量51%と低下を認めた.
【結語】
今回の症例は感染性心内膜炎を疑うエピソードや既往もなく,自己大動脈弁血栓症と考えられた.自己大動脈弁血栓症の報告は少ないが,原因となる基礎疾患としてプロテインC・S欠乏症や抗リン脂質抗体症候群などの凝固能異常が挙げられている.本症例でも術後検査で抗凝固因子であるプロテインC抗原量の低下を認め,原因として血栓性素因が考えられた.