Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

一般口演 循環器
症例 弁膜症その他

(S608)

治療方針選択に苦慮し,外科治療を施行した高齢Ebstein病の1例

An elderly case of Ebstein’s anomaly who referred for surgical treatment after a deep consideration of the strategy

横山 しのぶ, 山田 聡, 辻永 真吾, 岩野 弘幸, 西田 睦, 秋沢 宏次, 澁谷 斉, 早瀬 英子, 清水 力, 安斉 俊久

Shinobu YOKOYAMA, Satoshi YAMADA, Shingo TSUJINAGA, Hiroyuki IWANO, Mutsumi NISHIDA, Kouji AKIZAWA, Hitoshi SHIBUYA, Eiko HAYASE, Chikara SHIMIZU, Toshihisa ANZAI

1北海道大学病院検査・輸血部, 2北海道大学病院超音波センター, 3北海道大学大学院循環病態内科学

1Division of Laboratory and Transfusion Medicine, Hokkaido University Hospital, 2Diagnostic Center for Sonography, Hokkaido University Hospital, 3Department of Cardiovascular Medicine, Hokkaido University Graduate School of Medicine

キーワード :

症例は70代の女性.20年前に前医でEbstein病と診断され無治療で経過観察されていたが,動悸を伴う発作性心房頻拍(AT)を認め,薬物治療で不整脈が消失せず,また,偶発的に低酸素血症を認め,精査・加療のため当院循環器内科に入院した.入院時の動脈血酸素飽和度は88%と低下していたが,チアノーゼは認めなかった.血漿脳性ナトリウム利尿ペプチド濃度は492 pg/mlと上昇し,動脈血酸素分圧は55 mmHgと低下していた.胸部レントゲンでは心胸郭比76%と心拡大を認めたが,肺うっ血は認められなかった.心電図では心拍数102 bpmのATを認めた.心エコー検査では,三尖弁中隔尖と後尖のplasteringと右房化右室を認めた.右室全体は著明に拡大し,壁運動はびまん性に低下していた.三尖弁は接合不全を呈し,逆流は高度だった.左室拡張末期径は30 mmと小さめで,左室駆出率は51%と軽度低下していた.収縮期に卵円孔開存を介した右房→左房短絡を認めた.心臓MRIでは,機能的右室の拡張末期容積係数は119 ml/m2と拡大し,右室駆出率は38%と低下していた.左室拡張末期容積は63 mlで,成人女性の対%正常値は79%だった.心臓カテーテル検査では,平均右房圧は9 mmHgで,収縮期に著明なV波を伴い,V波の最大圧は17 mmHgと上昇していた.右室拡張末期圧は正常上限で,肺高血圧を認めず,肺血管抵抗は2.7 Wood単位と高くなかった.肺動脈楔入圧は8 mmHg,左室拡張末期圧は8 mmHgと正常だった.Fick法による心係数は1.6 L/min/m2と低下し,肺体血流比は0.95だった.6分間歩行の総歩行距離は270 mと運動耐容能は低下していた.
以上より,Ebstein病による右室心筋障害と三尖弁形態異常から三尖弁逆流をきたし,右房が拡大して不整脈基質を形成し,卵円孔開存を介した右左短絡により低酸素血症をきたしたものと考えられた.また,右室機能不全,高度三尖弁逆流により心拍出量が低下した状態と考えた.成人Ebstein病の治療ガイドラインでは,反復性の上室性頻脈をきたす症例にはカテーテルアブレーション(ABL)がclassⅡa適応となる.有症状例あるいは運動耐容能低下例,チアノーゼ症例,奇異性血栓の既往,胸部レントゲンにて進行する心拡大や,進行性の右室拡大・機能低下をきたす症例は,classⅠで外科治療の適応となる.
本例では外科治療の適応も考慮されたが,明らかな心不全症状がないことや手術の侵襲度を考慮し,まずはATに対してABLを施行した.治療は成功せず,抗不整脈薬を導入し洞調律化したため退院となった.しかし,半年後ATが再発し易疲労感や息切れも出現したため,Ebstein病に対する外科治療の方針とした.Ebstein病に対する外科治療の遠隔成績は比較的良好だが,早期死亡率は4~6%と報告されており,その原因として心室性不整脈や心不全が多いとされている.本例における術後の問題点として,(1)何らかの理由で右室機能がさらに低下し,あるいは肺血管抵抗が上昇し,右心不全を発症する可能性,(2)小さな左室への術後の急激な前負荷増大により,左心不全を発症する可能性が考えられた.そこで,血行動態の変化に十分な注意を払ったうえで,三尖弁置換術(生体弁)と右房化右室の縫縮,卵円孔閉鎖術,右房部分切除を施行した.術後早期に明らかな心不全の発症はみられなかった.
成人期Ebstein病では,症例ごとに外科治療の適応や至適時期をよく見定める必要がある.右室機能のみならず左室の発育の程度も評価することで,術後の心不全発症のリスクを予想し,それをふまえて手術に臨むべきと考えられた.治療方針選択に苦慮し,外科治療を施行した高齢Ebstein病の1例の診断と治療経過を報告する.