Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

奨励賞 産婦人科
奨励賞 産婦人科

(S558)

妊娠中期に計測したTCD/AC比はSGA児の発症予測に有用である

Efficacy of transcerebellar diameter/abdominal circumference in predicting small for gestational age infant

篠原 諭史, 奥田 靖彦, 平田 修司

Satoshi SHINOHARA, Yasuhiko OKUDA, Shuji HIRATA

山梨大学産婦人科

Obstetrics and Gynecology, Yamanashi University

キーワード :

【目的】
胎児の小脳横径(transverse cerebellar diameter: TCD)は,子宮内での発育状況に左右されずに妊娠週数の推定に優れているとされている.一方で,胎児胎盤循環不全が背景にある不均衡型や混合型の胎児発育不全症例では躯幹の発育が抑制され,腹囲(abdominal circumference: AC)が小さくなることが知られている.正常発育の胎児と比較し,SGA(small for gestational age)児と診断される胎児発育不全の症例ではTCD/AC比が上記のような血流再配分のメカニズムから上昇することが予測される.SGA児は子宮内で正常に発育した児に比べ新生児死亡率や罹病率が高いことが知られており,出生前からの予測は周産期医療の中で重要な課題の一つである.TCD/AC比高値とSGA児の発症との関連性については,これまでごく少数の報告のみで本邦の症例を対象とした検討は行われていない.今回我々は,TCD/AC比とSGA児発症との関連性を検討し,本値がSGA児の発症予測に有用か否か検討した.
【方法】
2017年1月から2017年8月までに同意を得て妊娠24週から28週の間に当院で妊娠中期スクリーニングを行った染色体異常を除いた258例を対象とした.SGA児は在胎期間別出生体重標準値の10%以下と定義した.TCDとACの測定にはVoluson E 8または10および3-5MHzまたはRM6Cトランスデューサーを用いた.TCD/AC比とSGA児の発症に対する予測能についてROC曲線を用い検討した.また,TCD/AC比とSGA児との関連をその他の危険因子(非妊時のやせ,妊娠中の体重増加不良,甲状腺疾患,自己免疫疾患,多胎)を含め,単変量・多変量解析で評価した.統計学的検定にはMann-Whitney U検定,カイ二乗検定,Fisherの正確確率検定と多重ロジステック分析を用いた. 
【結果】
SGA児は21例(8.1%)で発症した.母体の平均年齢は33.3±5.1歳で,初産婦は175例(67.8%)であった.ROC解析からSGA児発症に対するTCD/AC比の予測能は比較的高く(AUC:0.75,感度:57. 1%,特異度:96.2%, 陽性的中率:57.1%, 陰性的中率:96.2%),カットオフ値は15.2%であった.TCD/AC比<15.2%の群では,22例(9.2%)が妊娠高血圧症候群を発症したのに比して,TCD/AC比≧15.2%の群では6例(28.5%)が発症し,有意に発症率が高かった(p=0.016).単変量解析でSGAと関連する因子は,TCD/AC比≧15.2%(p<0.001),多胎(p=0.02)であった.多変量解析では,TCD/AC比≧15.2%(調整オッズ比, 47.8:95% CI,12.7-179.9)のみがSGA児発症の独立した予測因子となった.
【結論】
本邦においても妊娠中期のTCD/AC比の計測は,陰性的中率が高値であることからSGA児の発症予測におけるスクリーニングに有効であることが判明した.