Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

奨励賞 消化器
奨励賞 消化器

(S558)

膵におけるdispersion imagingによる粘性評価の意義

Viscous evaluation of pancreas using dispersion imaging

鈴木 博貴, 廣岡 芳樹, 川嶋 啓揮, 大野 栄三郎, 石川 卓哉, 須原 寛樹, 小屋 敏也, 田中 浩敬, 中村 正直, 後藤 秀実

Hirotaka SUZUKI, Yoshiki HIROOKA, Hiroki KAWASHIMA, Eizaburo OHNO, Takuya ISHIKAWA, Hiroki SUHARA, Toshinari KOYA, Hiroyuki TANAKA, Masanao NAKAMURA, Hidemi GOTO

1名古屋大学大学院医学系研究科消化器内科学, 2名古屋大学医学部附属病院光学医療診療部

1Gastroenterology and Hepatology, Nagoya University Graduate School of Medicine, 2Department of Endoscopy, Nagoya University Hospital

キーワード :

【目的】
剪断波の伝播速度(shear wave speed)は,一般によく使用されるVoigt modelでは弾性(elasticity)と粘性(viscosity)の値によって決まるが,従来は粘性を0と仮定することで伝播速度から弾性率が求められてきた.粘性が増加すると伝播速度は剪断波の周波数に依存して速くなる.従って,伝播速度と剪断波の周波数の関係をグラフにした場合の傾き(dispersion)と粘性は正の相関があると考えられている.近年,粘性も組織の性状を診断する上で重要な指標となり得るとして注目されており,この傾きを画像化したdispersion imagingを用いることで粘性評価が可能となった.脂肪肝や慢性肝炎では粘性が増加するとの報告もみられている.しかしながら,膵における粘性評価についての報告はなく,膵領域における粘性評価の意義を見出すことを目的とした.
【対象と方法】
2017年11月から1ヶ月の期間に東芝メディカルシステムズ社製Aplio i900を使用し,dispersionをshear wave elastography(SW)としてカラーマッピングとして表示し,定量した正常膵51例(年齢中央値 62歳,男性:女性 32:19)を対象とした.慢性膵炎や占拠性病変を認めなかった症例を正常膵症例と定義した.B-mode画像で膵を描出し,血管や主膵管を避け,膵体部の膵実質で測定ROIを設定し,SWを測定した.測定ROIサイズは縦横 約1.5cm×約1.5cm.SWの測定回数は5回とし,測定ROI内のelasticity はpropagation表示を用い,dispersionはカラーマッピングを用いた.Propagation表示より測定ROI内で等高線の幅が一定で平行に表示されている部分を最大限に計測ROI(ROI sharp:Rect)をとり,そのROI内でelasticity,dispersionを計測し,その中央値を採用した.検討項目は,1)Dispersionの再現性の程度,2)Elasticity値(E値),dispersion値(D値)の関係,3)E値,D値と性別,年齢,BMI,飲酒歴,喫煙歴,高血圧,脂質異常症,糖尿病,高輝度膵,膵-体表間の距離の各因子との関係,とした.高輝度膵は肝臓よりエコー輝度が高いものと定義した.統計学的手法として,1),2),3)に関してそれぞれ,級内相関係数(ICC),Spearmanの順位相関係数,Kruskal-Wallis test,Mann-Whitney U testを使用した.
【結果】
測定成功率は96%(49/51例)であり,49例で検討を行った.E値,D値の中央値はそれぞれ6.7 kPa,15.2 m/s/kHzであった.1)E値のICC(1,1)/ICC(1,5)は0.584/0.875,D値のICC(1,1)/ICC(1,5)は0.518/0.843であった.D値は,E値と同様に再現性が高いことが示された.2)E値とD値の相関係数は,r=0.644(P <0.001)と正の相関関係がみられた.3)E値,D値ともに年齢と正の相関(r=0.373 P=0.008,r=0.368 P =0.009)が認められた.性別,BMI,飲酒歴,喫煙歴,高血圧,脂質異常症,糖尿病,膵-体表間の距離とD値には明らかな有意差はみられなかった.E値と高輝度膵の有無とでは有意差はなかった(P =0.812)が,D値に有意差を認めた(P =0.021).また,D値のIQRは高輝度膵では有意に大きかった(P =0.039).膵実質の輝度が高いとD値が高くなり,かつD値のばらつきも大きくなっている可能性が考えられた.
【考察】
既報の如く高輝度膵の成因は脂肪化のみならず線維化などの要因も関与している.高輝度膵症例においてD値のみ高値であるという結果は,主にD値が脂肪化を反映し,一方では,高輝度膵が脂肪化だけでなく線維化なども関与していることにより膵内に脂肪化のばらつきが生じ,それによりIQRが大きくなるのではないかと推察した.
【結論】
膵におけるD値は,E値と同様の再現性を有していた.年齢が高くなるにつれ,D値,E値ともに高くなる傾向にあった.