Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

奨励賞 基礎
奨励賞 基礎

(S554)

脂肪酸の音響特性解析による肝臓内の組織構造評価

Evaluation of liver structure by fatty acid specification with acoustic characteristic analysis

伊藤 一陽, 本田 瑶季, 吉田 憲司, 丸山 紀史, 山口 匡

Kazuyo ITO, Tamaki HONDA, Kenji YOSHIDA, Hitoshi MARUYAMA, Tadashi YAMAGUCHI

1千葉大学大学院工学研究科, 2千葉大学大学院融合理工学府, 3千葉大学フロンティア医工学センター, 4千葉大学大学院医学研究院

1Graduate School of Engineering, Chiba University, 2Graduate School of Science and Engineering, Chiba University, 3Center for Frontier Medical Engineering, Chiba University, 4Graduate School of Medicine, Chiba University

キーワード :

1.目的
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の早期診断法として超音波が有効視され開発が進められているが,脂肪沈着度の推定は高精度化している一方で,脂肪肝とNASHとの弁別は
未だ困難であり,NASH肝の組織構造を評価するためには肝生検を要する.我々は,肝臓内の脂肪酸組成が病態によって異なることに着目し,組織単体レベルでのミクロなエコー信号の性質を解明し,その知見を臨床でのエコー診断に適用することを検討している.これまでの中心周波数80 MHzを用いた検討において,NASHおよび単純性脂肪肝でそれぞれの特徴的な脂肪酸である,オレイン酸とパルミチン酸の音響インピーダンスと肝臓内の脂肪酸組成に関係性があることを報告してきた.本報告では,中心周波数80 MHzおよび250 MHzの超音波を用いて脂肪酸溶液とマウス肝臓を計測し,病態による音響インピーダンスと音速,および脂肪酸種との関連性について検討した.
2.対象と方法
脂肪酸溶液とマウス肝臓を計測対象とし,各脂肪酸固有の音響特性を多角的に評価した.脂肪酸は,先行検討におけるマウス組織の脂肪酸分析の結果においてNASHおよび脂肪肝で特に存在比が高かった500 uL脂肪酸溶液8種(パルミチン酸:PA,パルミトオレイン酸:PAOA,ステアリン酸:SA,リノール酸:LA,アラキドン酸:AA,エイコサペンタエン酸:EPA,ドコサヘキサエン酸:DHA)を対象とした.また,マウス肝臓は,病態の異なる正常肝,単純性脂肪肝,NASH肝,HCC:STAMマウスにおける摘出直後の生組織,およびそれらをホルマリン固定後に8 mに薄切した試料を用いた.
中心周波数80 MHzおよび250 MHzの振動子を組み込んだスキャンシステム(AMS-50SI改,本多電子株式会社)を使用し,水を介して試料下からエコー信号を収集した.また,マウス肝についてはガスクロマトグラフィを用いて肝臓内の脂肪酸組成を分析した.試料の評価には音速および音響インピーダンスを指標とした.音響インピーダンスは肝エコーの水との強度比,音速はエコーの位相および強度を用いて算出した.
3.結果と考察
脂肪酸溶液では,80 MHzと250 MHzで値は異なるものの,音響インピーダンスの大小関係はOA<LA<DHA<PA<EPA<SA<AA<PAOAとなり,摘出直後の生組織では,NASH<単純性脂肪肝<HCC<正常肝となった.これは,各マウスの肝臓内の脂肪酸含有率の関係性と一致している.また,薄切試料の音速はNASH<単純性脂肪肝<正常肝<HCCとなり,音響インピーダンスと相関関係にあることが確認された.今後,臨床用途の周波数帯での応用を考慮し,脂肪酸の音響特性の周波数依存性について検討する.