Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・技を究める 産科エコー
産科エコー 技を究める:産科エコー

(S508)

胎児超音波スクリーニングのコツ

Tips for fetal screening

芳野 奈美, 吉田 英美, 内田 純子, 磯部 美苗, 井上 アキ, 竹村 秀雄

Nami YOSHINO, Emi YOSHIDA, Jyunko UCHIDA, Minae ISOBE, Aki INOUE, Hideo TAKEMURA

1小阪産病院医療技術部臨床検査科, 2小阪産病院医局

1Clinical laboratory of medical technology department, Kosaka Women’s Hospital, 2Kosaka Women’s Hospital

キーワード :

【背景】
胎児超音波スクリーニングでは,出生前診断が有効である疾患を検出できるような検査を効率よく実施するために,確認すべき項目を決めておくことが望ましい.胎児検査に関わる基礎知識を把握し,スクリーニングに適した時期に適切な内容の検査を進めることが重要である.しかしながら日常の検査では,明らかな異常とは異なるものの正常と判断して良いのか確信の持てない画像や,母体条件や胎児の体勢により計測どころか画像を写し出すことさえ困難な状況に直面することもある.時間が経過することで状態が改善されるのを待つしかない場合もあるが,検査者の対応や工夫により“困った”を改善できるコツがあれば,可能な限り良好な画像を描出するために是非知っておきたいものである.
【検査の実際】
産婦人科診療ガイドライン産科編2017では,妊娠中期以降の胎児形態異常スクリーニング検査の至適時期は妊娠18~20週,28~31週が推奨されている.一次スクリーニングでは定めた観察項目をもとに,もれがないように正常像を確認し記録画像を残していき,正常と判断できないものをスクリーニング陽性とする.
日常検査でしばしば遭遇する状況をいくつかあげ,考えられる対策を以下に述べる.
●胎児が母体腹壁に対してうつ伏せ,もしくは仰向けで存在する場合や,児頭が下降している場合は,BPDの計測が困難であるためいったん他の部位の計測や観察を先に行う.胎児に動きが見られない場合は妊婦に側臥位になってもらい胎動を促したりすることも有効である.
●肥満妊婦で明瞭な画像が得られない時は,観察部位にフォーカスを合わせる・周波数の低い方のプローブを使用する・視野幅を狭めるなど,環境面をできるだけ整える.手技的には,お腹の上から適度に圧迫することでプローブと対象を物理的に近づけ,皮下脂肪を通過するエコーの距離を縮めることができる.
●胎児が子宮壁に接していて体表(特に胎児背部体表)の観察が充分に行えない場合はプローブで子宮を上下に軽く揺すったり子宮壁を軽く圧迫してぱっと緩めてみたりすると子宮壁と胎児との間に羊水腔を介在させることができ観察しやすくなる.
●羊水腔と子宮壁の境界がわかりにくいほどの多重反射が見られる場合は,プローブを当てる強さ(圧迫具合)をゆるめてみたりプローブを倒して角度を変えてみたりすると回避できる.
●検査中の妊婦に仰臥位低血圧症候群の症状が見られたときは,すぐに左側臥位になってもらい下大静脈が圧迫されない体勢にすると改善する.
●妊娠20週前後になると胎児の心臓をはじめとする各臓器の観察が可能となる.また羊水も豊富に存在するため胎児の体表を含めた全体の詳細が確認可能である.30週前後では,胎児の大きさがさらに増し観察しやすくなるため20週前後に確認困難だった項目も確認でき,また妊娠後期になって特徴の現れる重篤な疾患も検出できるためスクリーニングの精度が上がる.その一方で妊娠30週以降になると胎児の骨化が進み音響陰影の影響による死角が増えるなど不利な点も多くなるため,それぞれの項目について観察に適した時期を知っておくことは大事である.
【まとめ】
正しい断面を写し出す手技・各断面の正常所見を判断できる知識・適した時期に適した内容を見ることができる観察条件が重要である.妊婦の条件や胎児の体勢により思うような画像が得られない場合,まず妊娠週数に応じた必須の観察項目を確認し,複数回のスクリーニングの機会があるなら詳細の観察は次回の検査に委ねるといった臨機応変さも時には必要である.検査者が母体の気分不良に気づけないほど画面に見入ってしまうことは避けたい事態である.