英文誌(2004-)
特別プログラム・知を究める 血管
シンポジウム 血管2 深部静脈血栓症診療にエコーをどう活かすか
(S448)
静脈エコー標準化の歴史
History of standarization of venous ultrasound in Japan
松尾 汎
Hiroshi MATSUO
医療法人松尾クリニック
Matsuo Medical Clinic
キーワード :
静脈系には,筋膜より浅い部位である皮下を走行する「表在静脈(皮静脈)」と深い部分である深部を基幹静脈として走行する「深部静脈」および両者を交通する「交通枝(穿通枝)」がある.
静脈疾患としては,時に致死的となる,いわゆるエコノミークラス症候群(長時間旅行者血栓症,災害時血栓症など)とも称される静脈血栓塞栓症(VTE=肺塞栓症と深部静脈血栓症:DVT)が識られており,さらに我が国でのVTEの発生頻度が決して低くはないことも判り,静脈疾患への関心が高まった.また,表在の静脈瘤は殆どで何らかの下肢症状を認めQuality of life(QOL)の面からも極めて重要な疾患であり,静脈還流不全によるうっ滞性潰瘍への関心,さらに最近のレーザー治療の普及に伴い超音波検査の必要性が高まって来た.
それら臨床での変化を背景に,近年の超音波検査機器の進歩も伴い,無侵襲且つ確実に静脈を評価できるようにはなった.しかし,それらの検査方法や評価基準などには標準化が無く,検査を行った場所により検査法が異なったり,その基準値,判定基準などが曖昧であった.
我々がDVTの診断にエコーを用い始めたのは1992年で,依然として静脈造影検査がゴールドスタンダードであった.鳥取大 応儀先生達が下腿の静脈血栓に注目し,その評価も行われ,徐々にその評価対象や基準も整理されたのが2008年であるが,その後に静脈エコーが認知されるようになるには,超音波機器の進歩と同時に,検査技術の向上も必要であった.
また,静脈瘤の診断もドプラ法のみの応用から,画像も合わせて評価できるデュプレックス検査が主流となり,さらにカラードプラ法も応用可能となって,逆流部位や程度の評価が容易となった.DVT後遺症としての静脈うっ滞の治療への関心も高まり,静脈エコーが必須となった血管内レーザー治療法の普及にも伴なって,この度,静脈瘤とDVTの評価法を併せて標準化を図ることとなった.今後,静脈エコーが臨床にどう活かされるかによって,その意義が評価されることになるが,さらに認知・普及されることを期待している.