Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 産婦人科
シンポジウム 産婦人科1 卵巣腫瘍

(S347)

卵巣腫瘍の術前良悪性診断:超音波(IOTA LR2)はMRIよりも有用か?

Ultrasound-based IOTA LR2 model versus MRI for discriminating between benign and malignant adnexal masses: a prospective study

島田 佳苗, 松本 光司, 三村 貴志, 石川 哲也, 小貫 麻美子, 松岡 隆, 市塚 清健, 角田 肇, 関沢 明彦

Kanae SHIMADA, Koji MATSUMOTO, Takashi MIMURA, Tetsuya ISHIKAWA, Mamiko ONUKI, Ryu MATSUOKA, Kiyotake ICHIDUKA, Hajime TSUNODA, Akihiko SEKIZAWA

1昭和大学産婦人科学講座, 2昭和大学横浜市北部病院産婦人科, 3NTT東日本関東病院産婦人科

1Department of Obstetrics and Gynecology, Showa University School of Medicine, 2Department of Obstetrics and Gynecology, Showa University Northern Yokohama Hospital, 3Department of Obstetrics and Gynecology, NTT Medical Center Tokyo

キーワード :

【背景および本研究の目的】
卵巣腫瘍の術前良悪性診断は,治療方針の決定に大きく影響する.良性と推定される腫瘍では経過観察や一般病院での腹腔鏡手術が可能であるが,悪性と考えられる腫瘍では専門施設での根治術が必要となるからである.
  卵巣腫瘍の術前良悪性診断は,本邦では核磁気共鳴検査(MRI)が中心であるが,欧州ではより安価な超音波検査(US)が主に用いられている.International Ovarian Tumor Analysis(IOTA)研究グループでは,USによる卵巣腫瘍術前診断の精度と再現性の向上を目指して,ロジスティック・リグレッションモデル(LR1/LR2)や 簡易プロトコル(simple rules)を開発してきた.これらの診断モデルは欧州を中心に47ヶ国が参加する多施設共同国際臨床研究などの数々の臨床研究において検証されたが,いずれも良好な成績が報告されている.しかしながら,IOTAモデルとMRIを直接比較検討した研究はこれまで一つも報告されていない.
  今回我々は,卵巣腫瘍の術前良悪性診断の精度についてIOTA LR2とMRIを比較検討することを本研究の目的とした.
【対象・方法】
2014年から2年間に,昭和大学病院とNTT東日本関東病院で手術を施行した卵巣腫瘍患者265名を対象とし,卵巣腫瘍の術前良悪性診断についてIOTA LR2とMRIの正診率を前方視的に比較検討した.
  IOTA LR2では,1)年齢(year),2)腹水の有無(yes=1, no=0),3)腫瘍血流の有無(yes=1, no=0),4)腫瘍の充実部分径(mm: ただし, 50mm以上は50として計算),5)腫瘍壁の不整の有無(yes=1, no=0),6)acoustic shadowの有無(yes=1, no=0)の6項目をパラメーターとして計算式 「1/(1+e-Z), ただし,Z = 5.3718+0.0354 x(1)+1.6159 x(2)+1.1768 x(3)+0.0697 x(4)+0.9586 x(5)2.9486 x(6)」に入力し,そこから算出される数値(POM: probability of malignancy)によって良悪性診断を行った.本研究でも,先行研究と同様にPOM >0.1を悪性と診断した.MRIは,4名の放射線診断専門医の診断に基づいて良悪性を判断した.なお,本研究は各施設の倫理委員会の承諾のもとに行われた.
【結果】
卵巣腫瘍265例の術後病理診断の内訳は,悪性54例(境界悪性11例を含む)・良性211例であった.IOTA LR2とMRIの診断一致率は91.7%(kappa = 0.77)と高かったが,感度がLR2(0.94, 95%信頼区間 0.85-0.98)とMRI(0.96, 95%信頼区間 0.87-0.99)で同等(P=0.99)であったのに対し,特異度はLR2(0.98, 95%信頼区間 0.95-0.99)の方がMRI(0.91, 95%信頼区間 0.87-0.95)よりも統計的に有意に高かった(P=0.002).両者を組み合わせた場合(どちらかが悪性と診断した場合は悪性として扱う)の感度は1.00(95%信頼区間 0.93-1.00)であった.両者を組み合わせたときの特異度(0.91, 95%信頼区間 0.86-0.94)はMRI単独の場合と同程度であった.なお,上記の結果は各施設別の検討でも同様で差が見られなかった.
【結論】
卵巣腫瘍の術前良悪性診断においてIOTA LR2はMRIと同等の感度であるが,特異度においてMRIよりも優れていることが示唆された.このことから,IOTA LR2は本邦でも卵巣腫瘍の術前良悪性診断にぜひ導入すべきと考えられる.しかしながら,卵巣腫瘍の術前診断においては悪性腫瘍の見逃しを避けることが一番重要だと考えると,実際の臨床においてはIOTA LR2とMRI併用する方が望ましいだろう.今回のスタディは2つの施設のみの少数の症例での検討であるため,今後は大規模な多施設共同研究で結果を確認する必要があると考えられる.