桑原 崇通, 原 和生, 栗田 裕介

Takamichi KUWAHARA, Kazuo HARA, Yusuke KURITA

愛知県がんセンター中央病院消化器内科部

Department of Gastroenterology, Aichi Cancer Center Hospital

キーワード :

【背景と目的】
慢性膵炎は健常人に比して悪性腫瘍，特に膵癌発生率が高い．超音波内視鏡（EUS）は膵実質を詳細に評価することが可能であるが，慢性膵炎例・慢性膵炎様膵実質例のB-mode画像は粗雑であるため微小な低エコー腫瘤の同定・診断が困難な場合が少なくない．今回我々は慢性膵炎・慢性膵炎様膵実質に伴った膵小腫瘤に対するEUS-FNAの診断精度と，腫瘤別の背景膵実質のEUS画像所見の違いを検討した．
【対象と方法】
2012年12月から2017年3月までに慢性膵炎の画像・臨床所見，早期慢性膵炎（ECP）のEUS画像所見のいずれかを認め，腫瘤径10mm以下（平均7.5±2.1mm）の低エコー腫瘤性病変に対してEUS-FNAを施行した112例を対象とした．乳頭部癌など閉塞性膵炎をきたす可能性のある疾患・IPMN合併例は除外し，膵実質は腫瘤頭側のEUS画像所見を，JPS慢性膵炎診断基準を用いて分類した．腫瘤の最終診断はEUS-FNAもしくは手術検体の組織診にて行った．良性と最終診断した症例は，手術検体もしくは半年以上の経過観察で変化のないものとした．検討項目は1）EUS-FNAの組織診断精度，2）腫瘤病理結果別の背景膵実質EUS画像所見の比較，とした．
【結果】
1）対象症例の内訳は確診11例，準確診3例，ECP16例，ECP疑い54例，臨床疑診8例，ECPのEUS画像所見のみ20例であった．診断の内訳は膵癌22例，良性65例，その他腫瘍25例（神経内分泌腫瘍21例，SPN2例，腎癌膵転移1例，肺癌膵転移1例）であった．EUS-FNAによる腫瘤に対する組織診のみでの診断精度は感度85.1％，特異度100％，正診率93.8％であった．2）膵癌・良性・その他腫瘍を有する背景膵実質のEUS所見数は，4.41±1.12・3.41±1.48・2.75±1.80で，膵癌合併例では良性（p=0.018）・その他腫瘍（p=0.002）に比して有意に高値を示したが，良性・その他腫瘍の間では差を認めなかった（p=0.561）．膵癌合併例の背景膵実質で有意に多く認めたEUS所見は蜂巣状分葉エコー（p=0.009），不連続な分葉エコー（p＜0.001），点状高エコー（p=0.028）であったが，良性・その他腫瘍の背景膵実質ではすべてのEUS所見で有意に多く認める所見はなかった．
【結論】
慢性膵炎のEUS画像所見を有し，膵実質が不明瞭な場合でもEUS-FNAの診断能は良好であった．膵腫瘤の違いでその背景膵実質のEUS所見に違いを認めた．