Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 消化器
パネルディスカッション 消化器2 腹部point-of-care US

(S323)

米国救急医学会の救急超音波ガイドラインにおける腹部POC超音波

Emergency Ultrasound Guidelines by the American College of Emergency Physicians: Point-of-care Ultrasound for Abdomen

児玉 貴光

Takamitsu KODAMA

愛知医科大学災害医療研究センター

Center for Disaster Medical Sciences, Aichi Medical University

キーワード :

多忙で複雑な環境で多重課題をこなさなければいけない救急外来は,医療過誤のリスクが高いとされている.米国では救急外来を安全に運営するために,救急医療に特化した超音波診断・治療技術として救急超音波の活用が進められてきた.米国救急医学会(American College of Emergency Physicians: ACEP)は,救急超音波を「医学的緊急事態,救急・重症患者の診断と蘇生,高いリスクや困難を伴う処置のガイド,病態の確実なモニタリング,治療の補助としてベッドサイドで超音波技術を用いること」と定義している.そして,救急超音波によるPoint-Of-Care(POC)を実践することで患者の来院から診断・診療方針決定・治療開始・治癒までの時間を短縮することを実現し,結果として患者フローの改善と患者満足度の向上が得られるなどの大きな成果が上げているのである.こうした診療は1980年代からすでに始まり,診療や教育のエビデンスが蓄積されていくことになった.救急超音波が普及しつつあった1991年にはACEPによるposition statementが公表され,2001年に包括的ガイドラインの第1版が刊行された.この時,修得すべき技術として11項目のcore applications(外傷・正常妊娠・腹部大動脈・心臓・胆道系・尿路系・深部静脈血栓・軟部組織/筋骨格系・胸腔・眼球・超音波ガイド下手技)が定められた.このガイドラインは定期的に改訂がなされ,2016年より腸管を加えた12項目がcore applicationsとして初期臨床研修医が重点的に学習すべき内容となっている.つまり,ACEPが定める現在の腹部POC超音波とは「大動脈・胆道系・尿路系・腸管・正常妊娠子宮」を網羅する診断・治療技術として認識されているわけである.新たに加えられた腸管では,1. 虫垂炎,2. 腸管閉塞,3. 気腹症,4. 憩室炎,5. ヘルニア,6. 小児の腸重積と幽門狭窄が主なスキャン対象となっている.例えば虫垂炎に関しては救急医によるPOC超音波の感度は60-96%,特異度は68-98%とされており,従来使用されていたCTによる診断に比較して放射線被ばくの低減と患者の救急外来滞在時間短縮を実現していることが記されている.同様に腸管閉塞は単純X線写真よりも感度や特異度が高いこと,気腹症や憩室炎に関しても高い感度と特異度のために急性腹症のスクリーニング検査として救急超音波は有効とされている.ヘルニアについては,単なる診断だけではなく病型分類やリアルタイムでの整復確認にも威力を発揮すること,小児疾患についても診断ツールの第一選択とされるに至っている.これらは適切な教育と経験の積み重ねによって実現することが知られており,教育プログラムの充実が求められている.腹部も含めたPOC超音波の普及と実践のためには,部署や施設の支援,プログラム責任者や指導医の業務明確化,診療の質を担保するレビューカンファレンスの運営,教育コースへの参加が不可欠である.このような体制構築を実現させることこそ,ACEPの救急超音波ガイドラインが目指す腹部POC超音波の姿なのである.